温泉

日本温泉文化研究会『温泉をよむ』(講談社現代新書 2088,講談社,二〇一一年一月)読了.
日本全国の温泉を紹介する本や雑誌はいっぱい出ていますけど,本書は温泉についての学術的な考察をおこなった,マジメな本です.マスメディア上にあふれるガイド本や,温泉地(温泉旅館)の姿勢に対しても辛口の批判を呈しています.温泉とは,たんなる観光地ではなく,日本古来の民族的・宗教的な営為を基盤とし,そのうえに築かれてきた存在だ,というのが著者たちの主張(の根幹)であるらしいです.
歴史学・宗教学・医学・民俗学・文学など,さまざまな観点からの論考はどれもおもしろく読むことができます.なかで,つぎの記述には,へ〜,そうなの,とおもわされましたので,ちょっとながくなりますけど,引いておきます.

戦国時代の温泉といえば、 甲信越地方を中心にみられる“隠し湯”が思い浮かぶ。よく知られているのは、 武田信玄上杉謙信・真田雪村の隠し湯であろうか。[中略]だがこれらはすべて、 明治時代以後に編み出されたつくり話である。
[中略]
隠し湯”が登場するのは、 じつは愛国心愛郷心を涵養するため、 明治時代から昭和初期にかけて編纂された郡誌や郷土誌以降なのである。[中略]わが郷土の英雄は、 戦場で負傷した兵士を温泉で療養させるような、 慈悲深い武将であったという主張なのであろう。(p. 33)