2012-01-01から1年間の記事一覧

自在の語り口が楽しい

中野京子『中野京子と読み解く 名画の謎 旧約・新約聖書篇』(文藝春秋,二〇一二年十二月)読了.キリスト教絵画については「怖い絵」シリーズでいくつか取りあげており,ことしの秋には『名画と読むキリストの物語』(大和書房)も上梓されていますが,後…

円熟のきわみ

吉田秋生『海街diary 5 群青』(小学館,2012年12月)読了.このシリーズ,5冊目になるんですね.派手なストーリーがあるわけではなく,ひとびとの日常を坦々と語っているように見えて,しかし,深刻なはなしが出てきたりもします.冒頭の「彼岸会の客」は…

ヘンな(?)ジャンルの研究書

平松隆円『黒髪と美女の日本史』(水曜社,2012年12月)読了.これはいったいどういうジャンルの本といえばいいんでしょうか.「第1章」で「盛り髪」というのをとりあげています.「ポンパ巻き貝ハーフアップ、くりくりエリ巻きトカゲ、リゾートすだれアレ…

歌舞伎学会2日目

2日目のきょうは研究発表5本を聞きました.歌舞伎研究の進化につれて,研究対象は細分化され,考証は精緻になって,それはけっこうなことなんですけど,それらの研究がどういうジャンルに属し,どういう位置にあるのかがわかりにくい,という面もあるよう…

歌舞伎学会秋季大会

武蔵野美術大学でおこなわれた歌舞伎学会の秋季大会にいってきました.1日目のテーマは「歌舞伎・文楽と近代美術」です.武蔵美の名誉教授である小石新八氏の講演は「現代舞台美術と歌舞伎大道具」と題されていますけど,舞台美術や大道具だけでなく,劇場…

美術関連の本3冊

さむい日がつづきますね.数か月まえに暑い暑いといっていたのがウソのようです.暑いときにはあつさのせいでなにもする気がおきず,読書量もおそろしく低下して,ブログの更新も怠りがちでした.季節がうつったのだから,気分をかえて読書やブログに取りく…

裏方のしごともけっこう大変なようです

国立劇場伝統芸能情報館のレクチャー室で開催された「第37回伝統芸能サロン 文楽人形 首(かしら)のはなし」にいって,文楽の首にまつわるあれこれのはなしを聞いてきました.講師は国立文楽劇場舞台技術課文楽技術室の村尾 愉氏.首の保守や修理にたずさわ…

奇妙な味わいの作品ばかり

『桑田乃梨子短編集 やみなべ』(幻冬舎,2012年11月)読了.「やみなべ」というのは単行本のタイトルとして付けられたもので,そういう作品がおさめられているわけではありません.『ラッキー!!』とおなじですね.こういう趣向は他のマンガや小説にもあるん…

綿密な考証

内藤陽介『喜望峰 ケープタウンから見る南アフリカ』(彩流社,2012年11月)読了.喜望峰というのは,たしか世界史の教科書でおぼえた地名で,どんなところなのか,どんな歴史があるのかなどはまったく知らず,興味もありませんでした.内藤氏の新著だという…

貴重な記録

カキコミの遅れのため,押せ押せになって日付がずれたままですけど,21日には狭山市立博物館で ≪ジョンソン基地とハイドパーク展 アメリカ文化に触れた頃≫ を見てきました.狭山市の稲荷山公園というのは,大正天皇による陸軍特別大演習を契機に大正2年に誕…

実用品になり,工芸品になり,土産物にもなる

事情があってカキコミが遅れてしまいましたが,昨20日に大田区立郷土博物館で ≪特別展 懐かし うつくし 貝細工≫ を見ました.チラシや図録のはじめに「海に囲まれたわが国では、貝は身を食べるだけでなく貝殻も長きにわたり利用してきました」とあります.ま…

充実した一日

石神井公園に散歩にでかけ,ふるさと文化館の企画展示室で ≪第十六回 練馬区手工芸作家展≫ を見ました.こういう催しがあったなんて,はじめて知りました.和紙人形や押絵や刺繍など,手の込んだ細工や工芸品をつくっているひとたちがけっこういるんですね.…

「水彩画」のもつ幅ひろさ

Bunkamura ザ・ミュージアムで ≪巨匠たちの英国水彩画展≫ を見ました.150点あまりの水彩画を8章にわけて展示していますが,すべてマンチェスター大学ウィットワース美術館の収蔵品だそうです.この美術館は「英国の画家による水彩画と素描を約4500点所蔵す…

新機軸と,その反面の使いにくさ

『大辞泉 第二版』(小学館,2012年11月)を5日前に買いました.以来,おもいついたことばを片っ端からいろいろと引いてみました.わずか5日間の体験でこの辞書を論評するなんて,無謀にもひとしい,おこがましい行為にはちがいありませんけど,とりあえず…

「古いようで新しい、知っているようで知られていない」

岡田温司『アダムとイヴ 語り継がれる「中心の神話」』(中公新書 2188,中央公論新社,2012年10月)を読みました.「おわりに」の冒頭で著者じしんが「まさか四冊目を書くことになろうとは、思いもよらなかった」と書かれています.中公新書ですでに「キリ…

個人の秘密と国家の秘密

清水玲子『秘密 トップシークレット 11,12』(白泉社,2012年11月)読了.「2010」は,昨年3月刊行の『9』からはじまって4巻にわたって繰りひろげられた,シリーズ最長の作品となりました.雑誌掲載は2010年 6月号からだそうですので,丸2年以上をつい…

近藤ようこ氏の「古事記」

近藤ようこ『恋スル古事記』(角川書店/角川グループパブリッシング,2012年10月)読了.ことしが「古事記」編纂1300年にあたっているため,「古事記」にかんする本がいろいろ出ています.わたくしの手元にあるのは『一個人 4月号』『別冊太陽 日本のこころ…

たまには運動を

「たまグリーンウェイWALK 〜風と水の散歩道〜」というイベントに参加してきました.西武多摩湖線の西武遊園地駅をおりて,都立狭山公園をスタート地点とし,「多摩地域の緑豊かな4つの緑道と3公園を散策しながら巡る」というもので,ゴールは国営昭和…

史料としても有益(?)

国際基督教大学博物館湯浅八郎記念館で ≪幕末から明治の諷刺画≫ を見ました.米相場の値段を記したものとか,黒船来航を報じたもの,なまず絵など,世相を伝えると同時に諷刺した作品がいろいろあります.なかでもっとも多いのが「子供遊び」を描いたもので…

琴線にふれる作品

遠藤淑子『なごみクラブ 4』(竹書房,2012年10月)読了.波乱万丈のストーリーがあるわけでもなく,意外性とかオチが用意されているのでもなく,ふつうの社会のなかのふつうのできごとを淡々と(ときにはちょっとマンガチックに)描いているだけなんですけ…

インターネット上の犯罪に対する提案

他人のパソコンを遠隔操作して犯罪予告をおこなった悪戯(?)が話題になっていますね.そういう高度のテクニックを駆使できるひとは,コンピュータのプログラミングなんかにくわしい,専門的な知識と技術をもっているのだと,おもわれます.ハッカーと呼ば…

装飾への執念(?)

天理ギャラリーで ≪東アジアの古代瓦 その起源と伝播≫ を見ました.瓦にとくに興味があるわけではなかったのですが,どんなのがあるのだろうかとおもって,覗いてきました.「日本に瓦が伝わったのは今から約1400年前のことです」との記述が冊子の冒頭にあり…

松苗あけみの絢爛たる世界

松苗あけみ『ベルサイユ狂想曲 〜エマは❤❤がお好き〜』(ぶんか社,2012年10月)読了.孤児院に育ったエマが某侯爵に見初められて玉の輿にのる,というシンデレラストーリーかとおもいきや,「その許婚者を陛下[ルイ14世]への貢ぎ物として差し出して[・・・…

坂田靖子のふしぎな世界

坂田靖子『サカタさんのペット大好き 坂田靖子よりぬき作品集』(ジャイブ,2012年10月)を読みました.冒頭におかれた「愛しのナンシー」がもっとも古くて1986年の作品.あたらしいところでは『ねこメロ!』に発表した「ネコスイーツ」が2009年と,20年以上…

ちょっと変わった企画展をハシゴ

学習院大学史料館で ≪近代日本の学びの風景 学校文化の源流≫ を見ました.明治初期にはじまる学校制度(とくに初等教育)にかかわるさまざまな資料を展示しています.学年別の授業とか,時間割によって科目を割りふるとか,生徒たちのまえに黒板を置くといっ…

ヤマザキマリ氏の新刊2冊

『テルマエ・ロマエ V』(エンターブレイン/角川グループパブリッシング,2012年10月)と『ジャコモ・フォスカリ 1』(創美社/集英社,2012年 9月)を読みました.『テルマエ〜』は前巻から引きつづく「伊藤温泉」のエピソードがますます盛りあがって最長…

合わせ鏡のような,ちょっとかわった技法

桑田乃梨子『放課後よりみち委員会 2』(幻冬舎コミックス,幻冬舎,2012年 9月)読了.荒唐無稽でいて,どこかほのぼのとしたところのあるヘンな学園マンガです.このさきの展開を作者はどれほどかんがえているんでしょうか.初期設定,というか,たんなる…

素朴な疑問

オスプレイの配備をめぐってあれこれと報道されています.日本政府の安全宣言とか,(これに反対する)配備先の知事や市長などの見解とか.が,どちらも奥歯にもののはさまったような,肝心な点をわざとぼかしているような,あいまいな発言に終始している,…

遠藤淑子の世界の豊饒さに圧倒されました

遠藤淑子『空のむこう』(白泉社文庫,白泉社,二〇一二年九月)読了.学園ものあり,時代劇あり,西洋中世(?)の物語あり,エッセイマンガありと,非常に多彩です.どの作にも,登場人物たちの切実な感情がみちあふれていて,読むたびに感動(ということ…

よくわからないところに味(?)がある(?)

武田泰淳『ニセ札つかいの手記 武田泰淳異色短篇集』(中公文庫,中央公論新社,2012年 8月)読了.短篇7作をおさめています.高崎俊夫氏は「編者あとがき」で「SF、哲学風コント、映画論、幻想小説等々、本書に収められたバラエティに富んだ短篇は、どれ…