2011-01-01から1年間の記事一覧

ことしもっとも印象にのこったもの

国立小劇場九月文楽公演のうち,「ひらかな盛衰記 笹引の段」.《五百羅漢 幕末の絵師 狩野一信》 (江戸東京博物館)蛇蔵&海野凪子『日本人なら知っておきたい日本文学 ヤマトタケルから兼好まで、 人物で読む古典』(幻冬舎,二〇一一年八月)「笹引」は戦乱の…

歌謡曲と昭和時代とについての考察

なかにし礼『歌謡曲から「昭和」を読む』(NHK出版新書 366,NHK出版,2011(平成23)年12月)を読みました.「序章 歌謡曲の終焉」の冒頭に「平成の時代も二十年をとうに越えた。ということは、 歌謡曲の終焉からも、 すでに二十年以上がたったわけだ」とあって,…

絵を「読む」ことのおもしろさ

小林章夫・齊藤貴子『諷刺画で読む十八世紀イギリス ホガースとその時代』(朝日選書 884,朝日新聞出版,2011年12月)を読みました.ホガースの出自,生涯,画業を解説すると同時にイギリス社会の政治的・歴史的・宗教的な背景や当時のひとびとの生活にもふ…

フェルメールの本質にせまる

藤田令伊『フェルメール 静けさの謎を解く』(集英社新書〇六二一F,集英社,二〇一一年一二月)を読みました.本質などということばはあまり使いたくないのですが,本書にかぎっては,あえて用いてもいい,とかんがえます.フェルメールの作品を見たときに…

歌舞伎学会2日目

きのうにひきつづき,東京学芸大学でおこなわれた歌舞伎学会の秋季大会に参加してきました.午前中に3本の発表,午後は「近世文学・文化の広がりと歌舞伎」というはば広い観点からの講演とシンポジウムがおこなわれました. 日清戦争に取材した「会津産明治…

特殊なテーマだけど,おもしろい

平成23年度歌舞伎学会秋季大会に参加して,3本の研究発表を聞いてきました.標題に記したとおり,どれも特殊な(周辺的な)テーマをあつかっていますけど,おもしろく,聞きごたえのある内容でした.もっとも,「周辺的」などというと,それではなにがオー…

秀太郎丈の芸談

片岡秀太郎『上方のをんな 女方の歌舞伎譚』(アールズ出版,2011年12月)を読みました.サブタイトルの「歌舞伎譚」には「しばいばなし」とルビが振ってあります.芸歴65年にして,ことし古稀をむかえた著者の,(おそらくはじめての)著書です.ご尊父であ…

すげえ人物へのすごい好奇心

鹿島 茂『蕩尽王、 パリをゆく 薩摩治郎八伝』(新潮選書,新潮社,2011年11月)を読みました.治郎八にかんする評伝としては本書の「あとがき」にも記されているように,村上紀史郎氏のものと小林 茂氏のものがすでにあります(*)が,アプローチのしかたと…

「ことば」にかんする話題はおもしろい

黒田龍之助『ことばは変わる はじめての比較言語学』(白水社,2011年12月)を読みました.黒田氏が某外国語大学で「比較言語学」を講じたさいの講義ノートや体験がもとになっているそうです.言語学についての知見を得ることも,もちろんできますけど,それ…

美術史の本?

岡田温司『デスマスク』(岩波新書(新赤版)1341,岩波書店,2011年11月)読了.古代ローマからはじまって,王や教皇や,近世・近代のひとびとの「デスマスク」を取りあげています.といっても,この「デスマスク」なるものには,ひとすじなわではいかない…

探究のおもしろさ

内藤陽介『年賀状の戦後史』(角川書店/角川グループパブリッシング,二〇一一年十一月)読了.内藤氏は切手やハガキなどの郵便物をさまざまな角度から考察されていますけど,今回の本では「年賀状」を対象に据えています.「新年に賀詞を交換する風習はわ…

ヌードというやっかいなもの

東京国立近代美術館で《ぬぐ絵画 日本のヌード 1880-1945》を見ました. 明治維新のあと,文明開化の世になって西洋の文物がいろいろともたらされたなかに,裸体画というのもあったんですが,こればかりは,西洋崇拝の風潮にもかかわらず,かんたんには受け…

詮索することのおもしろさ

杉並区立中央図書館で「講座 知の散歩道 『東海道四谷怪談』の『四谷』はどこか?」を聞きました(講師は光延真哉白百合女子大学講師).「四谷怪談」の「四谷」は,現在のJR四ツ谷駅ちかくかと(ばくぜんと)おもってしまうのですけど,これがじっさいど…

技術と美意識の融合

町田市立博物館で《江戸切子 日本のカットガラスの美と伝統》を見ました.初期の切子制作は「金属製の棒状工具などに金剛砂を水でつけ、 手動でガラスを削って行われていた」らしいのですが,「明治に入ると[・・・]回転工具によるカットの技法が伝えられ」,…

さいきん読んだ本

小野友道『いれずみの文化誌』(河出書房新社,二〇一〇年九月) 坂東三津五郎『三津五郎城めぐり』(三月書房,二〇一〇年十一月) 赤瀬川原平『個人美術館の愉しみ』(光文社新書 546,光文社,2011年10月) なんとも脈絡のない読書をしている,と,われな…

「窓」をめぐる考察

浜本隆志『「窓」の思想史 日本とヨーロッパの建築表象論』(筑摩選書0027,筑摩書房,二〇一一年一〇月)を読みました.浜本氏は紋章とか指輪とか錠前といった,モノにそくした書物をかずおおく上梓されていますが,今回の本では「窓」をとりあげています.…

ハチャメチャの極致

猫十字社『黒のもんもん組 完全版 1,2』(光文社,2011年11月)を読みました.「完全版」という宣伝文句にまどわされて,つい買ってしまったんですが,全部で何巻になるのでしょうか(11月24日に3と4とが発売予定とのこと).白泉社文庫版は抄本であったこと…

むかしのひとの工夫とその記録の貴重さ

東京都水道歴史館で《上水記展 分水にみる上水の役割》を見てきました.都指定有形文化財(古文書)になっている「上水記」は「玉川上水竣工から137年後の寛政3年(1791)に普請奉行上水方道方の石野遠江守広通が、 当時残存していた上水関係文書を編纂輯録した…

異文化間コミュニケーションのおもしろさ

蛇蔵&海野凪子『日本人の知らない日本語』とその続編を読みました(ともにメディアファクトリー.初編は2009年 2月,2巻は2010年 2月刊).どちらも半年たらずのあいだに数版を増刷し,シリーズ累計で140万部を突破しているそうです.すごいですね.タイト…

ツッコミがおもしろい

今日の朝日新聞読書欄の「著者に会いたい」で紹介されていた『日本人なら知っておきたい日本文学 ヤマトタケルから兼好まで、 人物で読む古典』(蛇蔵&海野凪子,幻冬舎,二〇一一年八月)を,さっそく本屋で買って,読みました.日本の古典文学への案内かと…

宣伝文句に惹かされて

青池保子『Z −ツェット− 完全版』(秋田書店,平成23年10月)読了.「Z」は花とゆめCOMICS版(全2巻)と白泉社文庫版を持っているのですが,「完全版」というキャッチコピーがあったので,つい買ってしまいました.「VI」ははじめて読む作品ですし,イラ…

虎がお好きなんでしょうか(笑)

波津彬子『レディ シノワズリ 1』(FLOWER COMICS SPECIAL,小学館,2011年10月)を読みました.ミステリー味の濃い作品ですけど,ストーリーのおもしろさにくわえて,中国趣味にあふれる美術・工芸などの描写も,この作の魅力をかたちづくるのに与っている…

20ヶ所制覇

「ぐるっとパス」というものがあるのは以前から知っていましたけど,利用したことはありませんでした.今年,8月から9月にかけて見たいとおもう美術展が4つほどあったので,これは「パス」を買ったほうがトクだとおもい,はじめて使用しました.入館料1,0…

感想がまとまらない

まる一週間,更新を怠っていました.なにも読んでいなかったわけではないのですが,感想文をまとめようとしてもうまくいかずに中断することが多く,結局,放置と同様の事態になってしまいました.読んだり見たりしたものについて,ささいなことであってもな…

團十郎という名の威力

大隈講堂で演劇講座「七代目市川團十郎の芸と波瀾万丈の生涯」を拝聴しました.整理券配布開始時刻(10:00)の5分前に着いたんですけど,すでに100名ほどの列ができていました.すごいですね.これは七代目團十郎への関心のたかさを示すものなのでしょうか…

浮世絵の影響

ニューオータニ美術館で《北斎とリヴィエール 三十六景の競演》を見ました.アンリ・リヴィエールというひとはまったく知らなかったんですが(*),フランス19世紀末の,モンマルトルのカフェを中心とする文化圏のなかにあって,影絵芝居にたずさわっていた…

擬人化が生みだす感動

遠藤淑子『スマリの森』(白泉社文庫,白泉社,二〇一一年九月)を読みました.動物を擬人化して描くときには,服を着せて二本足で直立させた姿にするのがふつうですけど,この本では主人公であるスマリとその家族たちをまったくの人間として描きだしていま…

映像表現のスゴさ

東京国立近代美術館 フィルムセンターで「裁かるヽるジャンヌ」を見ました.何十年かまえ,こどものころにテレビで見たおぼろげな記憶はあるのですけど,いちどスクリーン上で見たい,とおもっていたので,今回の上映に馳せ参じました.チケット発売開始の 1…

誤解の原因

本日の朝日新聞(朝刊)社会面に国語世論調査のことが報じられていました.慣用句をあやまって使っているひとがけっこう多い,ということを実例をあげてしめしています.そのいちばんはじめに「情は人のためならず」があり,現在では本来のただしい意味に使…

遠藤淑子氏の新刊

『アリル 〜午後のお茶は妖精の国で 番外編〜』(祥伝社,2011年 9月)を読みました.深刻なストーリーとファンタジーとギャグ(?)という,ふつうは共存がむずかしい要素が渾然一体となっているのが,特色です.「午後のお茶〜」はもともと短編の連作とし…