関川夏央・谷口ジロー『カラー愛蔵版『坊っちゃん』の時代 凛冽たり近代なお生彩あり明治人』(双葉社,二〇一〇年一二月)読了.

こういう作品があることは知ってはいたんですが,あまり関心がなく,しかも今回のカラー復刻版は値段も高いので購入することなどはかんがえてもいなかったんですけど,ふとしたキッカケ(魔がさしたとでもいうんでしょうか)で買ってしまいました.
読んでみたら,なかなかにおもしろいですね.明治三十八年〜三十九年に焦点をしぼった共時的な発想が卓抜で,ことに第七章の末尾は,歴史の皮肉というか暗合というか,あるいは無意味さのあらわれというか,そういう事実があったということだけを示していて,すごいです.

歴史はときとして劇的な演出を好む
その日の午後 新橋駅中央コンコオスの屋根の下で 多数の歴史的な人物が 本人たちはそれと気づかず一堂に会していた
漱石がぶつかった人物は安重根という朝鮮人で 数年後ハルビン伊藤博文に銃弾を打ち込む志士である また漱石の本を拾い集めてくれた若い陸軍少尉の名を東条英機といった
明治三十八年 大みそかの雑踏であつた

ほかに,どうでもいいようなことですけど,平塚らいてうのことを「いまでいえば 原田美枝子石原真理子池田理代子を足して三で割ったような性格の女性であった」(p. 130)と書いているのには,笑ってしまいました.