ことしもっとも印象にのこったもの

国立小劇場九月文楽公演のうち,「ひらかな盛衰記 笹引の段」.

《五百羅漢 幕末の絵師 狩野一信》 (江戸東京博物館)

蛇蔵&海野凪子『日本人なら知っておきたい日本文学 ヤマトタケルから兼好まで、 人物で読む古典』(幻冬舎,二〇一一年八月)

「笹引」は戦乱のさなかでの一エピソードにすぎないのですが,同時に,それを越えて,古代の神話的な世界のなかにはたらく<力>とでもいうべきものを感じさせるところがあって,ここにこそ文楽の神髄が見られるのではないかと,おもいます.「五百羅漢」の迫力というか集中力には,おそれいりましたというほかありません.蛇蔵&海野凪子氏の本は,学習マンガという部類に入るのでしょうけど,内容によりかかるのではなく,日本文学にかんする知見を対象化しようとする作者たちの姿勢そのものを対象化することによって,独自のマンガ作品として成立しているのがユニークです.