金魚がいっぱい

吉田智子江戸創業金魚卸問屋の 金魚のはなし』(洋泉社,2013年 7月)という本をたまたま見かけて,ちょっとおもしろそうだとおもい,買って読んでみました.著者は「創業350年を誇る老舗金魚・錦鯉の卸問屋『吉田晴亮商店』七代目女将(代表取締役)」で,本郷の東大ちかくで生簀をかまえて商いをおこなういっぽう,卸問屋の敷地内に「金魚坂」というレストランも営業されているそうです.金魚にかんするあれこれ,生物学的なこととか金魚(という文化(?))の受容の歴史とか,金魚をあつかった文学作品とか,じつに豊富な話題を綴っています.明快ですなおな文章がいいですね.ことに,金魚を(商品としてではなく)じぶんのこどもであるかのように語っているところがいいです.その一例として「金魚にも性格のいい子と悪い子がいます」という項の一節を引いておきます.

人間の性格が人それぞれのように、金魚もそれぞれ。リーダーシップのある金魚もいれば、自己主張の強い金魚がいたり、もちろんおとなしく控えめな子もいます。それが一番よくわかるのはえさをあげる時です。/自己主張が強かったり、わがままな金魚は、われ先にとえさへたどり着こうとします。だからおとなしい金魚はなかなかえさにたどり着けません。またアピール上手な金魚もいます。人が近づくと、「見て見て」と言わんばかりに水面に上がってきます。人なつっこい性格の金魚もすぐにわかります。金魚鉢をのぞきこむと、鉢の手前までスーッと泳いできてくれます。(pp. 46-47)

冒頭の「金魚は真上から見たものです」という項には,「真上から見る「上見」が普通だったのです」(p. 12)という指摘があります.現代ではもっばら水槽で飼っているので,泳ぐ姿を横からながめることがおおいのですけど,ガラスの水槽などがなかった江戸時代には陶器の鉢にいれた金魚をうえから見ることがおこなわれており,「何より、上から見ると、金魚の体型が左右対称であることや左右均等に尾びれを振りながら泳いでいることがわかります。(p. 13)」とのこと.ほかにも,金魚にまつわることがらがいろいろと語られており,どこもおもしろく読むことができます.カラー写真をながめるだけでも,たのしめます.ところで,金魚が出てくるマンガとして,桑田乃梨子氏の「青春は薔薇色だ」があったはずだとおもってさがしたところ,冒頭から15ページ目の「おれんちは金魚問屋やってっから」というセリフのあるコマに<ワキン・リュウキン・ランチュウ・オランダシシガシラ・スイホウガン>が描かれているのを見いだしました.さすが「ドーブツ好き」の桑田氏だけに,それぞれの特徴を正確に描いています.