中世と近世の混淆(?)

国立西洋美術館の企画展 ≪クラーナハ500年後の誘惑≫ を見てきました.クラーナハは美術史の本では有名な名前ですけど,実物に接するのははじめてです.版画もあれば油彩画もあり,題材もギリシア神話や聖書からとったものもあれば,同時代のひとびとの肖像画もあります.ひととおり見たうえでのおおざっぱな第一印象は,衣装や装飾品の描写がすごい,ということです.じつに念入りに描いています.髪の毛や髭も,よくもここまでこまかく描いたものだと,感心させられます.女性のまとうスケスケの布も独特ですね.ついで気づいたのは,構図や人物のしぐさに同じものが多いということです.デューラーなどの作品から借用(?)したり,逆に他の作家に影響した面もあるらしいのです.このあたり,現代の価値観とはことなるので,軽々しく断ずるわけにはいきません.同名の息子をはじめ,多くの弟子たちをかかえての集団的な量産体制をとった結果が現代に伝わる「クラーナハ」の作品なのだ,というべきでしょう.なお,シロートの勝手な言い分にすぎませんけど,似たような顔があらわれるという点に,ルネサンス以降の(そして現代にも通ずる)個性尊重とはことなる性格,いわば中世のイコンのような画一的な性質をうかがうことができるのではないかと,かんがえてしまいます.そうした面と,近世的な「美術」概念との両方を併せ持っているのがクラーナハなのではないでしょうか.