美術

へんな絵

中野京子・早川いくを『怖いへんないきものの絵』(幻冬舎,2018年12月)読了.早川いくをという方は名前すら知らなかったんですが,巻末の著者紹介によれば,多摩美術大学を卒業後,広告会社や出版社に勤めたのちに独立して文筆業となったとか.生物学を独…

美術ファンへおすすめ

高階秀爾『 ≪受胎告知≫ 絵画でみるマリア信仰』(PHP新書,PHP研究所,二〇一八年十一月)を読みました.「キリスト教と西洋美術の関係」などという(序章の)章題はいかにもむずかしそうですけど,西洋の文化に「受胎告知」がふかく入り込んでいることを示…

民衆のエネルギー

出光美術館で ≪「江戸名所図屏風」と都市の華やぎ≫ を見てきました.徳川家康による江戸の開府以来,ひなびた一地方にすぎなかった江戸は大都市に発展していきますが,そのいくつかの場面を描いた絵巻や屏風絵をあれこれと紹介しています.それまでの「美術…

見るだけでいい

またも半月あまり更新を怠ってしまいました.感想を記すのがめんどくさいというのが最大の理由ですが,それだけでなく,見たものについての感想というのが案外のクセモノで,厄介で,むずかしいことでもあるからです.見はしたものの,その感想をいいあらわ…

見比べることのおもしろさ

三週間以上更新を怠っていました.すこしは本を読んだり,美術館にいったりもしていたのですけど,書くのがおっくうで,ついそのままになってしまった,というのが実情です.たまたま本日は書いておくに値する(と,おもわれる)展示にいってきたので,紹介…

さまざまな「ヌード」

横浜美術館で ≪ヌード 英国テート・コレクションより≫ を見てきました.チラシに「ヌードをめぐる表現がいかに時代とともに変化し、また芸術表現としてどのような意味をもちうるのか、絵画、彫刻、版画、写真など約130点でたどります」とあって,そうした観…

よくまあ,集めたもんだ

Bunkamura ザ・ミュージアムで ≪ルドルフ2世の驚異の世界展≫ を見てきました.ハプスプルク家の皇帝という立場にありながら,政治よりも文芸や美術や自然科学などへの関心が高かったらしいルドルフが財力にものをいわせて集めたモノ(の一部)がすなわち今…

ガラス器あれこれ

一ヶ月あまり更新をおこたってしまいました.先月下旬の降雪以来,外出することも少なく,見逃してしまった美術展もいくつかあります.これではイカンと,今日は新宿歴史博物館にいって ≪色ガラス芸術のパイオニア 岩田藤七、久利≫ を見てきました.岩田藤七…

こんな人がいたの?

練馬区立 牧野記念庭園記念館の企画展 ≪雪斎・竹斎 英国キュー王立植物園帰国展≫ を見てきました.服部雪斎,加藤竹斎ともに江戸後期から明治前期にかけて植物画の制作に携わったのだそうです.伝統的な絵画としての花鳥画ではなく,博物学的な観点からの「…

装飾への執着におどろく

五島美術館で ≪光彩の巧み 瑠璃・玻璃・七宝≫ を見ました.キラキラ輝くものへのあこがれは古今東西,どの文明にも共通してあるのでしょうか.本展示では日本の七宝かざりを色々と紹介していますが,道具類(ことにやや小さいもの)にほどこされた品がおおい…

雅びの極致

千葉市美術館で ≪ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信≫ を見ました.これほど多くの春信作品に接するのは,はじめてです.世俗のしがらみなどをまったく感じさせない,雅やかな男女の姿を見ているだけで,幸福に気分にさせてくれます.しかも,それだけでな…

重量感と躍動感

東京国立博物館で ≪運慶≫ を見ました.10時すこし前に着いたのですが,かなり長い列ができており,入場まで30分ちかく待たされ,館内も相当に混雑していました.でも,やはりいってよかったです.写真で見るのと実物に接するのとでは,「迫力」といったらい…

絵の背後にあるもの

国立西洋美術館で ≪アルチンボルド展≫ を見ました.アルチンボルドといえば,ひとの顔をくだものや魚の寄せ集めで描いた画家として知られており,まずはそうしたケッタイな絵をおもしろく見たんですが,じつはそれだけではなく,当時のひとびとの世界観(と…

不思議な感触

練馬区立美術館で ≪太齋春夫展≫ を見ました.たまたま,インターネット上である美術ファンの方が紹介されていたので,いってみたんですが,なんといえばいいんでしょうか,こんなのもあるの,というのが正直な感想です.サブタイトルに「生誕110年記念 漆の…

とんでもない部分への注目

鈴木堅弘『とんでも春画 妖怪・幽霊・けものたち』(とんぼの本,新潮社,2017年 5月)を読みました.春画をあつかった本はこれまでにも多々ありますが,本書は「尋常ならざる」部分に着目しているのが特色です.日本の春画は,男女のセックスシーンだけでな…

どの絵にも「動き」がいっぱい

東京藝術大学大学美術館で ≪雪村 奇想の誕生≫ を見ました.「「ゆきむら」ではなく「せっそん」です」とチラシにあるように,雪村はあまり知られてはいない絵師のようです.わたくしもはじめて聞く名前だとおもったのですが,念のために辻惟雄氏の『日本美術…

国芳の多面性

府中市美術館で ≪歌川国芳 21世紀の絵画力≫ を見ました.「「なぜ今、国芳なのか?」その答えを、国芳の作品の中に秘められた造形力や美意識に探る展覧会です」とチラシにあります.会場のはじめには「水滸伝」の豪傑たちを描いた武者絵が掲げられ,ついで役…

流麗と雄渾と

国立新美術館で ≪ミュシャ展≫ を見てきました.ミュシャといえば,流麗なアール・ヌーヴォー調の美人画や装飾的な花などで知られていますけど,今回の展示では「スラヴ叙事詩」を前面に押しだしています.会場に入るとすぐに,巨大な,高さが6メートルほど…

七宝といっても一様ではない

東京都庭園美術館で ≪並河靖之 七宝 明治七宝の誘惑−透明な黒の感性≫ を見ました.ここ数年,明治期の工芸への関心が高まっていて,並河靖之の作品も取りあげられることが多いんですが,今回の「没後90年を記念する」展示は「初期から晩年までの作品を一堂に…

スゴイ!というほかない

Bunkamura ザ・ミュージアムで ≪ゴールドマン コレクション これぞ暁斎! 世界が認めたその画力≫ を見てきました.暁斎といえば,奇矯な作風の絵師だというふうに捉えがちですけど,けっしてそればかりではなく,じつに多彩で多様な作品を産みだした非凡なひ…

キリスト教の図像ばかりではない

繭山龍泉堂で ≪六田知弘写真展 ロマネスク≫ を見てきました.フランス,スペイン,イタリア,それにイギリスの教会や修道院の写真を50点ばかり展示しています.建物の全景を写したものもあれば,柱頭の装飾や浮き彫りなどの細部にせまったものもあり,取りあ…

さすがフランス王妃

森アーツセンターギャラリーで ≪マリー・アントワネット展 美術品が語るフランス王妃の真実≫ を見てきました.フランス革命で断頭台の露と散ったアントワネットへの関心は日本でも高いのでしょうか,会場内はかなり混雑していて,最後まで見るのにけっこう時…

中世と近世の混淆(?)

国立西洋美術館の企画展 ≪クラーナハ展 500年後の誘惑≫ を見てきました.クラーナハは美術史の本では有名な名前ですけど,実物に接するのははじめてです.版画もあれば油彩画もあり,題材もギリシア神話や聖書からとったものもあれば,同時代のひとびとの肖…

マンガに連なる趣向・技法

日比谷図書文化館で ≪江戸からたどるマンガの旅 鳥羽絵・ポンチ・漫画 [後期展示]≫ を見てきました.展示替えがあるというので,前期展もいきたかったのですが,出かけるのがおっくうだったり,いろいろと事情があって,会期終了間近の今日になってようや…

ちょっと変わった美術館

東京黎明アートルームで ≪花下遊楽図屏風と寛文美人図≫ を見ました.ここははじめてのところで,たまたまチラシを入手したのでいってみたんですが,ちょっと変わった美術館だ,というのが正直な感想です.タイトルに謳われている屏風と美人図のほか,肉筆浮…

箔押しのような金と銀がみごと

武蔵野市立吉祥寺美術館で ≪生誕120年記念 小林かいち展≫ を見ました.2004年と2011年にかいちの作品をいくつか見たことはあるのですが,今回は500点以上を一挙公開しており,これほどまとまって見るのははじめてです.絵はがきと絵封筒という,やや小さめの…

幽霊,妖怪,死人,そして自然

太田記念美術館で ≪怖い浮世絵≫ を見てきました.「四谷怪談」などの歌舞伎に取材したもの,九尾の狐や酒呑童子といった妖怪を描いたもの,凄惨な殺しの場面,さらには幕末から明治の天変地異を伝えるものなど,「怖い」といってもいろいろです.なかで,芳…

浮世絵をさらにパロディー化する(?)

川崎・砂子の里資料館で ≪笑いの名所絵 歌川広景「江戸名所道戯尽」≫ を見てきました.広景は(名前からして)広重の門人ですが,生没年不詳で,どれほどの作を残したのかもよくわからないそうですけど,この「江戸名所道戯尽」はなんとも皮肉でおもしろい作…

細密工芸!

たばこと塩の博物館で ≪細密工芸の華 根付と提げ物≫ を見てきました.根付や印籠や煙草入れはこれまでにもいくつかの博物館で見たことがありますけど,これほど多くをまとまって見るのは,はじめてです.その多様さに圧倒されます.素材や大きさや意匠もまち…

植物(+ 昆虫)あれこれ

東京都庭園美術館で ≪ガレの庭 花々と声なきものたちの言葉≫ を見ました.ガレといえば,でっかいトンボを貼りつけたガラス器が有名ですが,今回の展示はタイトルやサブタイトルが示唆しているとおり,「植物」がメインとなっているようです.じっさい,ガレ…