山口仲美氏の新刊書

山口仲美『日本語の古典』(岩波新書(新赤版)1287,岩波書店,2011年 1月)を読みました.「古事記」から「梅児誉美」まで30点の作品をとりあげて解説・論評しています.といっても,文学史でも概説書でもありません.著者の姿勢は「プロローグ」であきらかにされていますが,とくに「言葉・表現から読む」という小見出しの部分で

私の専門は日本語の歴史です。だから、 専門を生かして、 主に言葉との関わり合いから古典を取り上げていく。これが、 この本のスタンスです。(p. 4)

と書かれているのが重要でしょう.また,「一作品ごとにテーマを設ける」ともいっておられます.こうした手法(というか,語り口というか)による本書は.どの項もおもしろく,たのしんで読むことができ,おしえられる点もおおい,有益な書物です.たとえば「竹取物語」でのかぐや姫のことばづかいは,漢文訓読のような固い口調なのだそうです.そう聞くと,「竹取」の原文も読んでみたくなりますね.ほかにも,読んでみたい,とおもわせる記述がいっぱいあります.
ところで,例によってのあらさがしですが,「大鏡」の道長にかんするエピソードで「憮然」ということばがつかわれています(p. 102).これって誤用じゃないの,とおもい辞書をしらべたところ,『大辞林 第三版』は「思いどおりにならなくて不満なさま/落胆するさま/事の意外さに驚くさま」と3種の義を載せ,『広辞苑 第六版』には「失望してぼんやりするさま。失望や不満でむなしくやりきれない思いであるさま/あやしみ驚くさま」とあるのを発見しました.「憮」はほんらい失意をあらわすはずですけど,「不満」の意をふくませることが許容されるようになったのでしょうか.