春画

ジーナ・バックランド(矢野明子 訳)『大英博物館所蔵 春画 EROTIC ART IN JAPAN』(平凡社,2010年10月)を読みました.
大英博物館が所蔵する日本絵画・浮世絵のコレクションのうちには250点以上の春画がふくまれており,2013年春には春画の展覧会が開催されるのだそうです.本書は,そのための予備的考察とでもいえばいいでしょうか,具体的な作品をとりあげつつ,「春画制作の背景、 春画の機能や特徴、 春画の流通に対するさまざまな規制」などについて解説しています.
春画の特色」の章で,「場所」や「着物」や「性器の誇張」や「会話」をとりあげているのは,西洋人にたいしてだけでなく,わたくしたち日本人にとっても有益で貴重な指摘といえます.歴史的な記述のほか,個々の絵師についてのコメントもあります.なかで,北斎の『万福和合神』にかんして,「春画全般に言えることだが、 われわれ鑑賞者は現実を離れたフィクションの世界に遊んでいるのである。本書の意図するところは、 女性の権利を主張することではなく、 尽きることのない女性の欲望に対する男性のファンタジーである。[中略]彼女たちがいつでも性交でき、 たとえ自分の意志に反して犯された場合でも、 結局はそれを楽しんでいるという設定は非常に不快なものである」(p. 136)と書かれているところには,著者のフェミニスムがつよくあらわれていて,印象にのこりました.
なお,ささいなアラサガシですけど,「浮世柄比翼稲妻」に取材した国貞の作品(といっても,「下絵」にすぎませんが)についての説明(p. 152)が,不破と名古屋とをとりちがえて,まちがったものになってしまっているのが,残念です.