キワモノ?

江宮隆之『團十郎海老蔵 歌舞伎界随一の大名跡はこうして継承されてきた』(学研新書094,学研パブリッシング学研マーケティング,2011年 8月)を読みました.さて,はなしはまるで変わりますけど 6月26日に日本橋室町野村ビル(YUITO)で織田紘二氏の講演を聞いたさい,昨今はキワモノ的な出版物が出るばかりで,むかしの役者さんたちのことを書き綴った『芸と人』のような地味なものは出版がむずかしいのに,演劇出版社はよく出してくれたものだ,といった意味のことが語られたのをおぼえています.「キワモノ的な出版物」とは何なのか,織田氏は具体的な書名をあげたりはしませんでしたけど,おそらく幻冬舎あたりの大量の出版物を指しているのではないかと,おもわれました.ところで,江宮氏の今回の本はどうなのか.海老蔵のセンセーショナルな事件のあとだけに,世上の話題に乗じた出版という面はあるでしょうけど,團十郎の代々を,ことに,取りあげられることの少ない三世や六世や(追贈された)十世についても言及している点で,これは成田屋の家系についてのすぐれた著述といえるのではないだろうかとおもって読みすすんでいったのですが,最終章のつぎに置かれた「歌舞伎の主要十七家(屋号と家紋)」というコラムの一節には,唖然とさせられました.

中村歌右衛門は「女形の系譜の家」であって、 もちろん「荒事」も「立役」も「実事」も代々のほとんどは演じていません。(p. 305)

こんな記述をそのまま印刷にまわして世に流通させるなんて,編集者はいったい何をしていたのでしょうか.「学研」といえば,幻冬舎みたいな新興のあやしげなところとはちがう,権威ある出版社だとおもっていたのですが,こうしたていたらくには,まったくあきれてしまいます.