誤解の原因

本日の朝日新聞(朝刊)社会面に国語世論調査のことが報じられていました.慣用句をあやまって使っているひとがけっこう多い,ということを実例をあげてしめしています.そのいちばんはじめに「情は人のためならず」があり,現在では本来のただしい意味に使っているひとと誤用しているひととがほとんど同数になっているとのことです.この手の話題は新聞のコラムなんかがよくとりあげていますけど,たいていは,こんな事態である,となげく(批判する)ばかりで,その原因にまでふみこんだものはほとんどありません.わたくしは,この問題を以前どこかの掲示板に書き込んだことがあるのですけど,はっきりとおぼえていないので,あらためて記すことにします.
「情は人のためならず」が誤解されやすいのは,七五調のせいなのではないかと,おもうのです.ふつう,ひとはこれを「情は人の/ためならず」と区切って読むのではないでしょうか.それで,「ためならず」の部分だけでひとまとまりの意味があるかのようにかんがえて,「その人のためにならない」という意味を付与してしまうのではないかと,おもわれます.意味にそくして区切るなら,「情は/人のため/ならず」であり,さらに分析するなら「情は/「他人のため」/に・あらず」で,否定の「あらず」は「他人のため」にかかり,他人のためでないなら,すなわちじぶんのためである,ということになり,ほんらいのただしい意味にたどりつくことができます.「新口村」の梅川のクドキ「金ゆえ大事の忠兵衛さん」を「金より大事な/忠兵衛さん」だとおもっているひとが多い,というのも,やはり七五調のせいかと,おもいます.これも意味にそくして区切るなら,「金ゆえ/大事の忠兵衛さん/科人にした/も/私から」で,「金ゆえ」は「(科人に)した」にかかるんですね.
義太夫節は,もともと庶民がもてあそんだ卑近な芸能ですので,こうした誤用や誤解が生じたとしてもいたしかたない,とおもうのですが,現代の新聞がことばの問題としてとりあげるときには,たんに現状を嘆いたりおもしろがったりするだけでなく,その原因や社会的な背景や潮流までを考察してほしいものです.