映像表現のスゴさ

東京国立近代美術館 フィルムセンターで「裁かるヽるジャンヌ」を見ました.何十年かまえ,こどものころにテレビで見たおぼろげな記憶はあるのですけど,いちどスクリーン上で見たい,とおもっていたので,今回の上映に馳せ参じました.チケット発売開始の 12:30 にはすでに数十人の列ができており,ひとびとの関心のたかさをおもいしらされます.無声映画の傑作として知られ,ことにクロースアップを多用した技法が有名ですけど,じっさい,そのとおりですね.まったく圧倒されました.わたくしがヘタな感想を記すまでもないでしょう.先人のすぐれた紹介を引いておきます.

裁かるるジャンヌ」はもっとも大胆な実験的な映画として映画史の上で有名である。カール・ドライヤー監督はこの映画ではジャンヌ・ダークの受難と火刑とを描くのにほとんど普通の映画の手法を使わずに、 思いきったアングルと思いきったクローズ・アップによって空間を細分して、 それを角度のあるモンタージュによってさらに再構成して、 まったく新しい映画表現を試みた。ジャンヌを裁く宗教裁判のシーンなども、 どの位の広さの、 どんな形の、 そしてどんな家具や調度のある部屋で行われているかついにわからない。わかる必要はないと作者は主張する。そして、 作者はその場にいあわせた審問官の僧たちの表情をまるでジグソー・パズルのように切りこまざいてうつしている。それによって感情的なクライマックスをもりあげようと企てたのである。
岩崎 昶『映画の理論』(岩波新書(青版)246,岩波書店,昭和31年 7月),pp. 86-87.