探究のおもしろさ

内藤陽介『年賀状の戦後史』(角川書店角川グループパブリッシング,二〇一一年十一月)読了.内藤氏は切手やハガキなどの郵便物をさまざまな角度から考察されていますけど,今回の本では「年賀状」を対象に据えています.「新年に賀詞を交換する風習はわが国では古くからおこなわれてきたが、 明治四年三月一日(一八七一年四月二十日)に西洋諸国に倣った近代郵便制度が発足すると、 その賀詞を郵便で送るということも自然発生的におこなわれるようになった」(p. 4)とのことで,こんにちの年賀状(年賀郵便)の習慣は明治初期のあたりから始まったらしいんですね.明治三十九年には年賀状を一般の郵便物とは区別して取りあつかう規程が制定されたものの,昭和十年代には「非常時」の「虚礼廃止」ゆえに自粛が要請されたりすることもあったり,年賀状はさまざまな紆余曲折をへているようです.そうした経緯を内藤氏は綿密に,じつにくわしく調べています.現在ではごくふつうの,年賀にふさわしいとおもわれる「干支」にたいしても,昭和20年代には「悪しき迷信」として批判されていた,という記述もあります.おなじく年賀切手の定番といえる郷土玩具にかんしても政治的なおもわくがあったとか,年賀葉書(寄付金付きと寄付金無し)の発行数についての郵政省の算段とか,ウラの事情にもふれていて,どのエピソードもおもしろく読むことができます.
さて,例によってのアラサガシで恐縮なんですけど,かなりの誤植が目についたのが残念です.p. 4とp. 122では助詞の「と」(とあるべきところ)が「を」になっています.p. 67の「日本テレビは、 駅や公園、 繁華街など、 多くの日知人が集まる場所に街頭テレビを設置」の「日知」は衍字でしょうか.p. 72の一行目には「当時の現職郵政大臣、 武知勇記」とあるのに,おとなりの二行目(および八行目)では「武市」と表示されています.これらは,著者よりも,編集者や校正担当者の責任なんでしょうけど,ひろい意味でいうならば出版社の姿勢にかかわるものなので,やはりなおざりにしてはならないことなのではないでしょうか.