美術史の本?

岡田温司デスマスク』(岩波新書(新赤版)1341,岩波書店,2011年11月)読了.古代ローマからはじまって,王や教皇や,近世・近代のひとびとの「デスマスク」を取りあげています.といっても,この「デスマスク」なるものには,ひとすじなわではいかない面があるようです.古代エジプトにもあったデスマスクも,「起源をさらにさかのぼるなら、 おそらく頭蓋崇拝にたどり着くだろう」(pp. 15-16)ということで,宗教学や人類学とのかかわりも視野にはいってくるでしょうし,同時に,政治的なおもわくも考慮しなくてはいけないようなのです.王の葬儀のさいにその蝋人形が掲げられたこととか,ローマ教皇枢機卿たちの墓碑彫刻が入念につくられたこととか,当時の信仰と世俗世界の風習との一致(または乖離?)が示唆されています.そのいっぽう,マダム・タッソーの蝋人形(というきわめて世俗的な見世物)にも言及し,最終の「第8章「名もなきセーヌの娘」」では多くの文学者たちの「デスマスク」へ寄せる(フェティッシュといってもいいほどの)おもいを描いています.このあたり,ヘタな小説なんかよりは,よっぽどおもしろく読めます.