「ことば」にかんする話題はおもしろい

黒田龍之助『ことばは変わる はじめての比較言語学』(白水社,2011年12月)を読みました.黒田氏が某外国語大学で「比較言語学」を講じたさいの講義ノートや体験がもとになっているそうです.言語学についての知見を得ることも,もちろんできますけど,それよりも,授業の現場での学生たちの対応(および,それにたいする著者のコメント)のほうがおもしろい,というのが,わたくしの正直な感想です.たとえば「音位転換(メタテーゼ)について、 例を挙げなさい」という課題に,「モリタタモリ」とこたえた解答があったそうで,これにたいし黒田氏は「ううっ、 そうかなあ。これは倒置で、「ジャーマネ」(<マネージャー)とか「デルモ」(<モデル)とか、 あるいは「まいうー」(<うまい)といった、 いわゆる業界用語風のひっくり返した語なんじゃないの?」と,書かれています(pp. 103-104).ほかに,これは比較言語学とはとくに関係のないことなんですけど,つぎのような指摘もあります.

日本語において不思議なほど権威を持っているのが『広辞苑』という国語辞典である。人文科学に携わる人にとって、 この辞典を盲目的に信じてはいけないことは常識なのであるが、 世間では思いのほか信用されている。一民間出版社が作っているものなのに、 日本語の定義などではしばしば引用される。そもそも「『広辞苑』によれば」というような書き出しのある文章は、 だいたいにおいて退屈である。(p. 183)

かなり辛辣ですね.この評価が妥当であるかどうかはともかくとして,「権威」にたいする著者の姿勢には共感をおぼえます.