町田市のミュージアムをハシゴ

町田市立博物館で ≪裁縫ひな形と布への想い≫ を見ました.「裁縫ひな形」とは「明治14年に「和洋裁縫伝習所(現東京家政大学)を開設した渡邊辰五郎が考案した、裁縫技術の習得方法の中で制作された衣類などのミニチュア」だそうです.いきなり着物を縫わせるのではなく,五分の一ほどのミニチュアをつくることによって着物の構造を教えると同時に,運針にも慣れさせようとした,その手段というか成果が「裁縫ひな形」なんですね.博物館が収蔵するもののほか,神奈川大学日本常民文化研究所の所蔵する資料(衣類や写真や書籍類)が今回,かずおおく展示されています.また,むかしの写真をもとに復元した「裁縫ひな形」もあります.が,それらにまさっておどろかされたのは,明治39年うまれの女性が生涯にわたって保存し,裁断し,つぎあわせてつくってきた「作品」です.こんにちの使い捨ての風潮とは逆に,ふるくなった着物は炬燵のかけ布団などとして再生させ,さらにふるくなれば雑巾にし,しかもそれでおしまいではなく,細切れにした布を糸にしてあらたに布を織る材料としたというのですから,リサイクルの徹底さにはまったく驚嘆させられます.
無名のひとびとの手になる日常的・実用的な,いわば「褻」にぞくするモノに感動したあと,町田市立国際版画美術館で ≪浮世絵 国芳から芳年へ−≫ を見ました.こちらはいきで洗練された美学というか,あるいは職人的なワザの極致というか,「裁縫ひな形」とは正反対なんですが,どちらも(貴族や支配階級ではなく)民衆の手になるという点で共通しているのが,おもしろいところです.日本独特のふしぎな社会構造というべきなのかもしれません.が,そんなことはさておいて,120点あまりの展示作品は力作ぞろいで,堪能できます.国芳の『唐土二十四孝』は西洋画ふうの表現が目をひきます.広重と(三代)豊国との合作『小倉擬百人一首』は着想の妙がこのシリーズをささえているらしく,「見立て」ともちがうようです.たとえば「猿丸太夫」について「「奥山にもみぢふみわけなく鹿の」という上の句から、父の敵をうつために箱根の奥山にのぼった箱王丸(曽我五郎の幼名)を連想します」とあり,「和泉式部」では「「今ひとたびの逢ふこともがな」という下の句を、悪七兵衛景清の娘の気持ちに見立て、景清が立ち去る姿を描きました」というように,詩句の一部と伝説との自由なむすびつきを作者たちはおもしろがっているようです.芳年は,師匠国芳ゆずりの武者絵なんかも描いていますけど,血みどろのおどろおどろしい作が有名ですね.が,そればかりではなく,ことに明治に入ってからの「「大蘇」以降の芳年」は表現のうえにも変化を見せ,ややおとなしい作風になっているらしいのですが,独自の感性はやはりすばらしいです.『風俗三十二相』のうち,「洋装でとびきりのおしゃれをした若奥様」を描いた「遊歩がしたさう」はモダンな感覚にあふれていますし,最晩年の『月百姿』では抒情的な<絵>と故事とのとりあわせが絶妙な世界をつくりだしています.
なお,太田記念美術館ではことし6月から7月にかけて ≪浮世絵 猫百景 国芳一門ネコづくし≫という企画展を,10月から11月には ≪没後120年記念 月岡芳年≫ を開催するそうです.いまからたのしみです.