怪物がいっぱい

新人物往来社(編)『名画に出てくる 幻想世界の住人たち』(新人物往来社,二〇一二年四月)を読みました.「第1章 ギリシャ神話の住人たち」と「第2章 さまざまな神話・伝説の住人たち」にわけて,ゴルゴーンとかニンフとかドラゴンといった<怪物>をとりあげています.フレスコ画や石像もありますけど,多くは近世以降の絵画で,ギュスターヴ・モローオディロン・ルドンの作品が目立ちます.画家によって,表現がことなるのがおもしろいですね.たとえば冒頭の「ゴルゴーン(メドゥサ)」では紀元前5世紀のレリーフにはじまり,ルーベンスやカラヴァッジョの作品を紹介したあと,それらとはうってかわったフェルナン・クノップフの「眠るメドゥサ」やダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの「メドゥサの容貌(怪物になる前)」も掲載しています.これを見ると,神話・伝説に語られたイメージと,それを対象化しようとした画家たちの発想や表現力との葛藤(というかドラマというか)がけっして単純なものではなかったことがわかります.伝承じたい,確固としたものではなかったらしいんですね.サイレンの語源である「セイレーン」も,もとは人面で下半身は鳥だったのが,人魚のすがたであらわされたりもします.他の怪物たち,パーンやサテュロスなども,おぞましいものとしての性格と,滑稽な面とをあわせもっているみたいです.こうしたひとびと(?)をまとめた本書は,西洋絵画の(ある特定分野の)アンソロジーとして,また幻獣小辞典としても読める,なかなかに貴重な本ではないかと,おもいます.