「生活」へ注ぐまなざしのあたたかさ

森 薫『乙嫁語り 4』(エンターブレイン角川グループパブリッシング,2012年 5月)を読みました.冒頭の「第十八話」で部族間の対立やかけひきといった政治的状況が語られ,「第十九話」以後は旅をつづけるイギリス人・スミス氏のはなしになるかとおもいきや,今回初登場した「ふたごの悪童 ライラとレイリ」のほうが主役になってしまったようです.桑田乃梨子氏の「りるるとるりり」ほどではないにせよ,まぎらわしいなまえですね(笑).本巻では,この元気なふたごのせいでしょうか,コミカルなタッチがつよく打ちだされています.が,結婚にからまる結納金の制度など社会的な問題も取りこんでいて,個人のおもいと,その背後の事情との双方に向けた森氏の複眼的な視点を感じさせます.「第二十二話 短期集中花嫁修業」で娘たちをきびしく仕込んだ母が,最後のシーンでやさしいことばをかけるのが,感動的です.それにしても,こうした牧歌的な(といってもいいような)生活は,このさきどう展開し,どのように変容していくのでしょうか.「乙嫁語り」は19世紀後半の中央アジアを舞台としていますけど,そこには現代日本の生活や,現代のわたくしたちの意識が仮託されているのではないか,そして森氏の「日本」へむけた期待と願望とが秘められているのではないかと,想像してしまいます.