綿密な考証

内藤陽介『喜望峰 ケープタウンから見る南アフリカ』(彩流社,2012年11月)読了.喜望峰というのは,たしか世界史の教科書でおぼえた地名で,どんなところなのか,どんな歴史があるのかなどはまったく知らず,興味もありませんでした.内藤氏の新著だというのでとりよせてみたんですが,じつに内容豊富で,南アフリカ共和国にかんするあれこれがよくわかりました.2010年秋にヨハネスブルグで国際切手展がおこなわれたさい,審査員団のメンバーとしておもむいたときの体験をもとにしているそうです.せっかく南アまでいくのなら「有名な三角切手のゆかりの地」である喜望峰を見ておきたい,とのおもいから,ケープ半島を回る日帰りツァーに参加し,翌日はケープタウンの街中をいろいろと探訪しています.大航海時代喜望峰「発見」にはじまり,植民地開拓にたずさわったひとびとのことや近現代の戦争,歴史的建造物,各種の博物館,自然の景観に動植物等々と,多種多彩な話題がつぎつぎに展開し,どの項もおもしろく読むことができました.切手や絵はがきなどの郵便物を史料として使う手際はいつもながらあざやかで,みごとです.そしておそらく多量の文献にもあたっておられるのでしょう,とりあげていることがら(人物や事件など)にかんする綿密な考証にもおどろかされます.さて,例によってのあらさがしですが,いくつかの誤植が目につきました.たとえばp. 137の下から3行目の「東アフリカ」はあきらかに衍字でしょう.p. 143にはヴィクトリア女王の夫君であるアルバートのことを「王配」と書いていますけど,こんな単語があるのかどうか,手元の辞書にあたったかぎりでは見つけることができませんでした.また,日本の南氷洋捕鯨をあつかった箇所に

1947年3月中旬までに、日本水産の橋立丸船団が捕獲頭数シロナガス換算(BWU)6,391.5頭、生産量は鯨油3,700トン、鯨肉10,557トン。大洋漁業の第一日新丸船団が捕獲頭数540.5頭、生産量は鯨油8,560トン、鯨肉11,609.8トンを得て、日本人にとって貴重なタンパク源をもたらした。(p. 151)

とある数字には誤植(あるいは抜け落ち)があるのではないでしょうか.ささいなことですけど,こうしたミスは著書への信頼を失わせかねないので,残念というほかありません.