奇妙な味わいの作品ばかり

桑田乃梨子短編集 やみなべ』(幻冬舎,2012年11月)読了.「やみなべ」というのは単行本のタイトルとして付けられたもので,そういう作品がおさめられているわけではありません.『ラッキー!!』とおなじですね.こういう趣向は他のマンガや小説にもあるんでしょうか.わたくしがおもいつくのはオスカー・ワイルドの第二童話集『柘榴の家』(*)くらいです.余談はさておき,『やみなべ』の収録作はどれも奇妙な味わいの作品ばかりです.冒頭の「プリンス・オブ・フールズ」はコーヒー屋の店員が「バカの国からバカの修業に来てる」というヘンなはなしですけど,しかもそのコーヒー屋というのが香田クンの創作であるらしいんですね.事実だとおもっていたら登場人物のひとりによる創作だったというのは「豪放ライラック」にもありましたが,この「プリンス・オブ・フールズ」の場合は矛盾するふたつの設定を同時につめこんでいるようにも見えます.「サロン・ド・エンド」は『ラッキー!!』に収録の「オッケー!!」をおもわせるところがありますし,「RPG(ロマンシング プリンセス ゴーゴー)」は「プリンス・オブ・フールズ」の設定を流用しているかのようです.「ドキドキ苦悶坂学問所」も4コマ漫画で構成しているところが「だめっこどうぶつ」を連想させます.だからといって,以前の作品や技法を安易に再利用しているとか,二番煎じにおちいっているといった非難めいた感情はまったく起きません.むしろ,パロディーにちかいおもしろさを感じさせてくれる作品になっている,と,おもいます.そして桑田氏独自の言語感覚.いろいろとあるなかで,「プリンス・オブ・フールズ」の「大庭(おおば)クン」と「香田(かだ)クン」とをふたり合わせると「おおばかだ」になる,というのをあげておきます.
*)原題は The House of Pomegranates. 集録作品は「若い王」「王女の誕生日」「漁師とその魂」「星の子」の4編.