40周年と30周年

デビュー40周年記念自選集 文月今日子のお気にいり』(宙出版,2013年11月)と『川原泉傑作集 ワタシの川原泉 I』(白泉社,2013年11月)を読みました.文月氏の本の巻頭の「フリージアの恋」は1973年,19歳で公表したデビュー作だそうです.装飾過剰でモノローグがおおく,独自のスタイルを確立しているとはいいがたいのですが,描線の入念さとうつくしさ,そして重層的なイメージは圧倒的で,19歳でこれだけ描けるのは,すごいです.巻末には著者による「作品解説」があり,創作のうらばなしなどあれこれ語っていますが,なんと「2012年、6月。仕事中、私としたことが、クモ膜下出血で倒れてしまいました」とのこと.が,後遺症もなく,手術後一ヶ月で退院し,秋には仕事にもどることができたそうで,なによりです.6作をおさめた本書のさいごに載せている「理想の花ムコ」が2013年発表の最新作で,絵も文字もやはり過剰ですけど,ストーリーのおもしろさと楽しさを堪能することができます.なお,文月氏といえばもっぱらラブコメものとおもってしまいますけど,初期(「フリージアの恋」の前)に描いた「ゆきわり」という作は「第二次大戦のレジスタンスもの」だそうで,そうしたハードな作品もあるんですね.「ファランドール」や「銀流砂宮殿」などにも捨てがたい魅力があります.
いっぽう,川原氏の本は「デビュー30周年を記念して特設サイトにて実施された期間限定の読者投票」を参考にして編んだものです.12月には第II巻の刊行が予定されており,2冊で,単行本未収録の2本をふくむ15本を掲載するとのこと.川原氏の作品というのは,なんといったらいいんでしょうか,超ユニークで,ジャンル別に分類するのがむずかしく,また作者を現代の漫画家さんたちの間でどう位置付けるかも問題であるようです.掲載作それぞれのあとに読者投票のさいに寄せられたコメントをいくつか紹介していますが,川原氏の特色や魅力をうまくいいあらわしたコメントは,残念ながらすくないといわざるをえません.わたくしの,これもごく一面的な印象にすぎませんけど,感想をいわせてもらうならば,お気楽なギャグと深刻な人間関係とが共存している作品がおおい,と指摘できるかとおもいます.