近藤ようこ氏の新刊2点

『五色の舟』(KADOKAWA,2014年 4月)と『宝の嫁』(KADOKAWA,2014年 4月)を読みました.『五色の舟』は津原泰水氏の短編小説を漫画化したものだそうです.これは,なんといったらいいんでしょうか,ずいぶんと異様でグロテスクな内容です.原作を読んでいないわたくしには,原作のトーンがどのようなものであるのか判りかねますけど,内容とはうらはらに,どこか明るい雰囲気があるのが,不思議です.近藤氏のあまり入念でない絵がそうした効果を生みだしているのかもしれません.ラストは,はたしてこれが現実のことであるのか,それとも死後の世界での霊魂の会話であるのか,やはりわたくしには判りかねますけど,さわやかな印象をあたえられた,ということは書いておきたいと,おもいます.
『宝の嫁』は,2006年12月にぶんか社より刊行されたものの新装版です.判型を変え,「あとがき」を付したほかには変更点はありません.ぶんか社版を刊行当時に読んでいたはずなのに,はじめて読むのとおなじで,どこもまったくおぼえていなかったのに,愕然とさせられました.老人力の増大はおそろしいものです.ただし,収録作はどれもおもしろく,楽しんで読むことができました.今回の「あとがき」に「気楽なかわいらしい、おとぎ話のようなものを描きたいと思いました」とあるとおり,中世の説話のもつ曖昧な,異なる解釈がありうるかもしれない部分をそのままに提出しているのが,この本の特色かと,おもわれます.「あとがき」で「毛色の違うものが一つ混じっています」と書かれているのは「君よ知るや南の国」を指しているのでしょうか.これも,かならずしも明確であるわけではないのですけど,櫃のなかの人形がじつは人間だったというモチーフがつらぬかれている点では首尾一貫していて(やや)合理的な作風であるようです.ともあれ,近藤氏の本が KADOKAWA という大企業から刊行されて多くのひとの目にとまるであろうことになったのは,まことにけっこうなことです.