絵から読みとることができるモノとコト

中野京子『名画に見る男のファッション』(KADOKAWA,2014年 3月)読了.名は体をあらわすというとおり,この本のタイトルが内容を端的に語っています.そして「まえがき」で,よりくわしく,むかしの風俗・習慣,ひとびとの意識,歴史的背景など,絵から読みとることのできるものやことを示して,「三十篇のエピソードを名画とともにどうぞお楽しみください」と書かれています.じっさい,わたくしも「名画」と,著者の簡潔で明快な(そしてときに辛辣な)文章を十分に楽しみました.30点の絵は,大きさも描きかたもさまざま.肖像画が多いのですけど,そればかりではなく,寓意画や歴史のひとこまを描いたものや,空想画もあります.フェルメールの『地理学者』について「この地理学者の上着は綿入れのように厚いし、どう見ても丹前(=どてら)である。これまた舶来品ではないのか、しかも日本からの(p. 51)」とされているあたりも,案外な着眼でおもしろいですね.フラゴナールの『ぶらんこ』をとりあげた項では,ファッションよりもむしろ絵の注文や創作の過程に関心が向けられているようです.その他,どの項からも,読み解き,想像し,探求することのおもしろさと楽しさを教えられます.ところで,些細なことながら,クリヴェッリの『聖ロクス』の項で「幸い、ボタンは古代にもう登場していた(p. 172)」とあるのは,現代のようなボタンがあったということなのでしょうか.徳井淑子氏は「ボタンの普及は十四世紀であり、十三世紀はボタンのない時代である」()と書かれているのですが.
)徳井淑子『服飾の中世』(勁草書房,1995年 1月)p. 130.