猫がいっぱい

平松 洋『猫の西洋絵画』(東京書籍,2014年 9月)を読みました,というより,ながめました.平松氏は <絶世の美女> などといったテーマを設定して,それに見合った西洋絵画を選んで解説を付した本をいくつも上梓されていますが,今回は <猫> です.猫は古代エジプトでは「多産と豊饒の女神としても崇められてきた」のに,キリスト教の世界観のもとでは魔女や悪魔の同類として排斥され,ようやく「18世紀末から20世紀初頭にかけて」猫のかわいらしさを素直に表現した絵がおこなわれるようになったのだそうですが,しかし,これらの「猫絵」は現代の美術史においてはさほど評価されていない,というより,ほとんど無視されているらしいのです.平松氏はそうした猫たちを「第1章 主役となった猫たち/第2章 子どもたちと一緒/第3章 美女と猫」に分けて紹介しています.猫を描いた画家はかなりの数にのぼるようですけど,わたくしの知っていたのはヘンリエッタ・ロナー=クニップだけでした.が,ほかのどの絵も,さまざまなシチュエーションや構図で猫を描いており,そこに繰りひろげられる世界はじつに多彩で,興味が尽きません.なかで,もっとも多くのページを割いて掲載しているルイス・ウェイン1860年〜1939年)の猫は「アニメのキャラクターのよう」で,擬人化がすすんでおり,おもしろく見ることができます.しかしウェインは「精神にも変調をきたすようになり」晩年は精神病院に収容されたとか.そのころの作なのでしょうか,「カレイドスコーブ・キャット」と題された数点は前半の猫ちゃんたちとはまるでちがう,錯乱した絵になっています.これにくらべると,「第2章 子どもたちと一緒」は愛らしいものどおしの組みあわせですので,安らいだ気持ちをさそってくれます.ただし,なかには石鹸の広告に使われた作もあり,やや通俗的な性格をあわせもってもいます.現代の美術史が「猫絵」をあまり評価しないのは,こんなところに一因があるのかもしれません.ところで,例によってちょっと余計なことを記すと,本書に収められているのは「猫を描いた西洋絵画」ですが,スーザン・ハーバート(Susan Herbert)氏は「猫で描いた西洋絵画」を数多く製作されています.現在では入手が困難なものも多いようですけど,美術ファン,猫ファンへはオススメですので,わたくしの持っている本をあげておきます.
『猫の美術館』(美術出版社,1990年 4月)『猫の名画物語』(グラフィック社,1996年 4月)
『Pre-Raphaelite Cats』(Thames and Hudson,1999年)
『猫のヨーロッパ名画展』(NHKきんきメディアプラン,1999年)