美術作品といっていい

石神井公園ふるさと文化館で ≪特別展 型紙の美 武蔵大学蔵 朝田家型紙コレクション−≫ を見ました.丹後の宮津で「天保年間(一八三〇〜一八四四)から明治三十九年(一九〇六年)まで紺屋を営んでいた朝田家からの寄贈資料を中心に展示」しています.型紙とは「反物を染め、加飾する方法」のひとつである「型染」のためのいわば道具で,柿渋を塗った和紙に小刀で文様を切り抜き,防染糊を置いてから布地を染めあげる,浮世絵でいえば版木にあたるものです(図録に,館長の岩崎均史氏がそんな意味の文章を寄せておられます).が,この型紙じたいが美術作品といってもいいほどのすぐれて見応えのある<作品>になっている,といっていいかと,おもいます.文様も,具象あり抽象あり,全面をおおいつくすばかりの緻密なものもあれば,ある大きさのなかに特定の模様を大胆な構図で置いたものなど,いろいろで,モダンなセンスを感じさせるものも少なくありません.文様を彫る技法も多様で,刃先を前方にむける「突彫」や,円形の穴を穿つ「錐彫」,二枚の型紙を彫り分けて(ダブらせて)用いる「二枚型」など,さまざまな工夫があったようです.それにしても,こんなにこまかい切り抜きがよくできたものだと,まったく感心させられます.なお,会場の後半には幕末から明治の「装い」を写した古写真が展示されています.上野彦馬など日本の写真師によるものと,ベアトらが撮影したものなど,これまたいろいろですが,当時のひとびとの着付けがけっこうマチマチであったことに,気づきました.だらしない,といったら失礼かもしれませんけど,現代の着付け教室でおこなわれているような格調高い立派な着付けとはちがう着方があったことは,(日本の風俗史の実態として)忘れてはならないのではないでしょうか.