春画の分類法(?)

オフェル・シャガン『わらう春画』(朝日新書朝日新聞出版,2014年10月)読了.オフェル・シャガン氏は春画のコレクターで,『ニッポン春画百科』(上下2巻,平凡社,2011年 7月)という著書もあります.今回の本は,タイトルにあるとおり,春画における「わらう」という要素に着目しているのが,ユニークです.総論というか,概説というか,「序文」で春画についての考察をおこない,そのあと,10の章にわけて春画の「わらう」諸相を紹介されています.「モラルをわらう」「覗きを笑う」「性欲を笑う」など,じつにさまざまな局面があって,日本の春画の多様さにおどろかされます.登場する人物,シチュエーション,描き方などから,江戸時代の制度や社会情勢をうかがうこともでき,そうした意味からも,春画がたんなるポルノグラフィーでないことがわかります.ところで,例によってのアラサガシですが,気になった点があるので,書いておきます.「第3章 ほかの階級を嗤う」のなかに「商品の山のなかで算盤の前に座る商人の絵がある。武士が背後から商人を犯し、前屈みになっている」との記述(p. 89)があるのですけど,ここに引かれている絵は国貞の『色手本忠臣蔵』という作で,画中に「三段目」との書きこみがあります.進物を前にした師直がはいつくばっており,そのアヌスを背後から本蔵が犯している,という,なんともへんてこりんな絵です.こんなシーンを,絵師がどこから発想したのか,また,ここにどんな意味をこめたのかはわかりませんが,犯されているのは「出頭第一の高師直」であって,「商人」ではありません.本書を担当した編集者は,こうしたことに気づかなかったのでしょうか.