ちょっと変わった切り口による美術史

中野京子(監修)『マンガ西洋美術史 01「宮廷」を描いた画家』(美術出版社,2014年10月)を読みました.美術史の本というのは,時代順に様式や流派に沿った記述がなされるのがふつうですが,監修の中野氏は「はじめに」で「これまでとは少し違った括り方で、西洋美術史を新しい視点から楽しいマンガとともに辿ってみようというのが、このシリーズです」と書かれています.そして「このシリーズ全体の切り口」とは「画家は何を描いてきたか」ということだとし,「これはある意味、何を描かざるをえなかったか、ということでもあります。つまり、近代以前の画家は自由になんでも描けたわけではないのです」と述べて,近世〜近代の画家たちの様相を追うことを表明されています.この「第1巻」は「「宮廷」を描いた画家」を,つづく第2巻では「「宗教・神話」を描いた画家」を,第3巻は「「市民社会」を描いた画家」,という具合に,全部で20人の画家を紹介・解説される予定のようです.「第1巻」ではベラスケスからヴィジェ=ルブランまで5人の画家をとりあげて,その生涯や作品創作のさいのエピソードなどをマンガで描いています(マンガはかんようこ氏をはじめとする4名の方が担当).どの画家も,自由でのびのびとした顔つきをしているのが,いいですね.じっさいにはゴヤのように,凄惨で波乱に富んだ生涯をおくったひともいるのですが,それでも,マンガのなかの画家たちは人間的な魅力(というか,オーラのようなもの)に満ちています.それぞれのマンガのあとには,「作品と人生」と題する中野氏の解説が置かれ,画家の年表も載せています.これ1冊で西洋美術史のかなりの部分がわかったような気になれる,重宝な本といえます.次巻以降もたのしみです.