職人芸のすごさ

武蔵野市立吉祥寺美術館で ≪生誕200年記念 伊豆の長八 幕末・明治の空前絶後の鏝絵師≫ を見ました.長八のなまえを知ったのがいつだったか,はっきりとおぼえていないのですが,メモを繰ったところ,2003年11月にたばこと塩の博物館の企画展「大見世物」で「官女図」という漆喰絵を見たのが長八の作にふれた最初だったとおもいます.その半月ほどあとに図書館から『土の絵師 伊豆長八の世界』という本を借りだして読んでいるのですから,かなりのインパクトを受けたのでしょう.もっとも,その後はまったくご無沙汰しており,今回久しぶりに長八の名をチラシで見つけたのでいってみたのですが,漆喰絵以外にも塑像や肉筆の絵画もあり,長八のつくりだす世界がきわめて多様でふしぎな魅力に満ちているのを発見した次第です.鏝絵ともよばれる,漆喰を練りあげてつくった浅浮き彫りふうの絵も,彩色をほどこしたのもあればほとんど白一色だけで仕上げたのもあり,一様ではありません.木彫かとおもったほどの立体像も漆喰でできているとか.これも,きわめて精緻なもの(「神農像」など)と,おおらかでユーモアを感じさせるもの(「天鈿女尊像」など)があります.さほど知名度があったとはおもわれない長八ですけど,今回の企画展を機会に,ぜひともおおくのひとたちに来て見てほしいものです.図録の写真には立体感があまり感じられず,実物に接するのがなによりです.正面からだけでなく,ななめから漆喰の盛りあがりを観察すれば,こういうのもあったのか,と,おどろくひとがおおいことでしょう.