現代の問題を告発する

清水玲子『秘密 season 0 2,3』(白泉社,2015年 9月)読了.「秘密」にとりかかるにはよほどの覚悟がいるので,発売当日に入手はしたものの,そのままになっていました.きょう,読みはじめ,一気に2冊を読みおえました.すごい,としかいいようがありません.冒頭に「1949年」とあって,核兵器の投下らしいシーンが描かれ,そのあと作品の「現在」からすればおそらく20数年ほどまえの「2036年 カザフスタン」の場面が8ページにわたってつづき,「現在」へとつながります.そこで起こった事件,起こるかもしれない事件の謎に薪さんたちが挑むのですが,はりめぐらされたトリックとドンデンガエシ,意外な展開,ひとびとの思惑と執念など,じつに重い内容で読むのがいきぐるしくなるほどです.『2』のなかほどに,缶詰を食べる少女が「でもどうして猫の絵がかいてあるの?/お魚だよね? コレ」と質問するのに兄が「猫が食べるんだよ/他所の国の」と答え,ネコ缶の絵を見た少女が「いいなあ/きれいな猫/この次は/その国の猫に生まれ変わって/毎日これ食べたいなあ」という回想シーンがあるのですけど,なんというほどのこともないセリフながら,涙をさそわれました.これがじつは作品全編をつらぬく伏線であることは,『3』のおわりちかくにいたって,ようやくわかります.核兵器原子力発電などによる自然の汚染がなにをもたらすのか.偏執狂的な人物による犯罪とはいっても,そしてそこには複雑な人間関係が伏在しているとはいっても,そういって済ませてはおけないほどの深刻かつ重大な問題がここにあります.汚染された土地からは「糧」を得ることはできず,まずしいひとびとは餓えに苦しみつつ死んでいく.そればかりでなく,伝染病の蔓延もおこりえます.ここから,「カニバリズム」を否定することの意味と根拠を問う視点が発生します.作中にもそんなセリフがあって,カザフスタンからやってきた作中人物は日本の都会のありさまを見て,つぎのようにいいます.「この国には/人しかいない」「だったらもう/もう「人間」を食べるしかないんじゃないか・・・」.食糧自給率が4割をきっている現代日本で,たべるもののない状況を想像できるひとはどれほどいるでしょうか.
なお,『season 0 1』も念のため読みかえしてみたのですが,この巻では薪さんの出自をあつかい,いろいろな人物たちの愛憎と行為とが描かれており,そのなかに難民の問題が出てきます.「外国人狩り」という排斥と,(殺人すらふくむ)犯罪行為がおこなわれ,また,「20世紀オリンピック公園」をあたらしく生まれ変わらせるプロジェクトというのが事件のキッカケにもなっています.『1』は『メロディ』2012年12月号から2013年 6月号まで掲載されたそうですけど,まるで2015年夏の状況(中東の難民問題,ヘイトスピーチ,オリンピック開催をめぐるゴタコタなど)を予測していたかのようです.清水氏の想像力と構想力には,まったくおどろかされます