聖母子がいっぱい

東京都美術館で ≪ボッティチェリ展≫ を見てきました.「春」や「ヴィーナスの誕生」を美術史の本などで見たことのないひとはおそらくいないのではないかとおもわれますが,実物に接する機会はあまり(というよりほとんど)無く,今回の企画展ほどの規模の展示は日本でははじめてなのだそうです.会場の冒頭に「ラーマ家の東方三博士の礼拝」が置かれていて,右端の(自画像とされる)人物が不審なまなざしをこちら側に向けているようでもあり,「さあ,この絵に描かれているものをよく見て謎解きしてごらん」と挑発しているようにも見えます.じっさい,ここにはメディチ家のひとびとが描きこまれていて,パトロンへの追従にもなっているのですけど,それだけではなく,建物の不思議なかたちや,ひとびとの仕草など,謎めいたところがあります.そうした「もの」へのこだわりに,ボッティチェリの特質があるのではないかとおもってしまうほどです.日本初公開の「聖母子(書物の聖母)」は描線の見事さが賞賛されているようですけど,そこここにちりばめられた「もの」(幼子の手にする3本の釘や背後の陶磁器や光輪など)のほうに,わたくしは惹きつけられました.なお,ボッティチェリの師匠であるフィリッポ・リッピと,その息子のフィリッピーノ,および工房の作が展示されているのも,今回の特色です.それにしても,聖母子像が多いですね.こまかい違いはあるにしても,どれもおなじように見えてしまいますが,当時のフィレンツェではそれほどまでに聖母子が好まれていたのでしょう.