浮世絵をさらにパロディー化する(?)

川崎・砂子の里資料館で ≪笑いの名所絵 歌川広景「江戸名所道戯尽」≫ を見てきました.広景は(名前からして)広重の門人ですが,生没年不詳で,どれほどの作を残したのかもよくわからないそうですけど,この「江戸名所道戯尽」はなんとも皮肉でおもしろい作品です.師匠である広重の「名所江戸百景」の構想を借り,その一部を模倣しつつ,独自の世界をつくりあげています.たとえば,広重の「日本橋江戸ばし」には日本橋の欄干と擬宝珠がクロースアップで大きく描かれ,右下に魚の入った桶があしらわれて,早朝の,江戸っ子のいなせな雰囲気を感じさせるのですが,広景の「日本橋の朝市」では魚屋の荷はひっくり返されて犬が魚をくわえて走り去る,というなんとも滑稽な情景になっています.あるいは,広重の「王子装束ゑの木大晦日の狐火」には荘厳な(といってもいいほどの)雰囲気がただよっているのに,広景の作では狐がひとを駕籠に乗せてかついでいる(狐に化かされている)描写があります.広重の「名所江戸百景」の構図を模した作でも,おなじ景色を視点を変えて描くとか,一部分だけをとりあげたり,あるいは逆に(視点を)引いてロングショットにしたりとか,さまざまな技法をこころみています.この広景というひと,これからも注目したいものです.