とてつもない「秘密」

清水玲子『秘密 season 0 4』(白泉社,2016年 8月)読了.
暗闇のなかでも,ものを見ることのできる人間がいる.「しかし○○○はハッキリ認識出来ない」.しかもこの能力は遺伝するらしい.可視光線」という題をもつ season 0シリーズの4冊目はこんな能力(?)をモチーフというかキーとして,ストーリーが展開します.しかし,このことがあらわになるのは作品の終りちかくになってであり,冒頭では,例によって進展がよくわからない場面が置かれ,ついで,銃を発砲した男が死体の顔を見て驚愕するシーンがあり,薪さんがその男に銃を向けます.場面はそのさらに3か月前に移り,以下,過去の事件やいきさつ,登場人物たちの体験,人間関係,ひとびとのおもいなど,複雑な要素がからみあいつつ,すこしずつ,全体の様相があきらかになっていきます.わずかな断片をもとに,それらを繫ぎあわせて真相に迫ろうとする薪さんの執念,こまかな作業にいそしむ青木クンの地道な努力,第九の他のメンバーたちの活動などを多面的に描き,複数の視点が交錯し,おなじ絵がくりかえし現れたりもします.読みおえて,かなりの疲労を感ずるほどの読書体験でした.これだけの作品を創りだした清水氏の才能には,感嘆するほかありません.ただし,緻密な構成がゆきわたるあまり,つくりものめいた印象を受けてしまったのも,事実です.作者にもよくわかっていない曖昧な部分をのこし,読者ひとりびとりの想像と解釈とを俟ってはじめて成立する,という性格が,作品に含まれてもよかったのではないでしょうか.