どの絵にも「動き」がいっぱい

東京藝術大学大学美術館で ≪雪村 奇想の誕生≫ を見ました.「「ゆきむら」ではなく「せっそん」です」とチラシにあるように,雪村はあまり知られてはいない絵師のようです.わたくしもはじめて聞く名前だとおもったのですが,念のために辻惟雄氏の『日本美術の歴史』(東京大学出版会,2005年12月)にあたったところ,「道教的色彩の強い独特な画風を発展させた」(p. 256)との記述があり,図版1葉が載せられているのを見いだしました.すっかり忘れていたわけですけど,じっさいに作品に接したのははじめてといっていいでしょう.標題に記したとおり,「動き」が感じられる,というのがシロートの第一印象です.あくびをしている布袋(cat. no. 44)や龍に乗っている呂洞賓だけでなく,山水画に描かれている(ごく小さな)人物たちの向きにも,観る者をして画面の奥に向かわせるジクザグな「動き」があるように感じられました.植物や動物を描いたものもいいですね.なお,光琳狩野芳崖や橋本雅邦など雪村に私淑したひとの作も出品されています.これらを考えあわせると,雪村の日本美術史における位置と意味も,変わってくるかもしれません.