印象派とその背景

中野京子印象派で「近代」を読む 光のモネから、 ゴッホの闇へ』(NHK出版新書 350,NHK出版,2011(平成23)年 6月)を読みました.「二〇一〇年秋の「ドガ展」(横浜美術館)で行なった講演「ドガの時代」を基に書き下ろしたもの」だそうです.<印象派>ということばの元となったモネの「印象 日の出」をはじめとして,数多くの作品をとりあげ,それぞれの内容や描き方や画家の意識,当時の評価,時代背景やひとびとの感性や風俗習慣など,はばひろく論じておられます.マジメな考察の部分ももちろんいいんですが,ややくだけた語り口におもしろさが感じられます.たとえば

印象派の好まれるわけは、 美術館めぐりをすれば誰もが感じると思います。それ以前の作品群の、 歴史や意味のぎっしり詰まった暗い画面を見続けてから印象派コーナーにくると、 何となくホッとする(フランス料理のあとの、 一口干菓子みたい)。格段に画面が明るい上、 考えることも知識も要求されない気楽さがあるからです。我が家に飾ってもいいかな、 と思える。ルーベンスの『メドゥーサの首』ならこうはゆきません。(p. 32)

あるいは,ロートレックがスケッチした『ゴッホ像』について,「カーク・ダグラスそっくり!」(p. 159)とも書かれています.ほかにも,女性が本を読むこととか,オペラ座の桟敷のこととか,現代人の常識をくつがえさせるような話題があり,へーそうなの,と,意外性をたのしみつつ,おもしろく読むことができます.