特定の地域へのこだわり

森薫乙嫁語り 3』(エンターブレイン角川グループパブリッシング,2011年 6月)を読みました.19世紀後半の中央アジア遊牧民たちの生活を描いています.もっとも,今回の第3巻はイギリス人のスミスさんが主役になっていますけど,スミス氏の物語というよりは,中央アジア遊牧民の社会や風俗や政治状況,そしてそこに暮らすひとびとの意識や感情こそが主題であるようにおもわれます.既刊の「1」と「2」では衣装や絨毯などの描写が圧巻でしたが,本巻では「第十六話 市場で買い食い」での食物がすごいです(笑).こうした<絵>を,森氏はなにをもとにしてつくりだしているのでしょうか.「あとがき」では具体的な参考文献を記したりはしていませんけど,厖大な資料を駆使しておられるのは,まちがいありません.
地域はややことなりますが,わたくしの手元に,2008年 3月にたばこと塩の博物館で見た《丸山コレクション 西アジア遊牧民の染織 塩袋・生活用袋物とキリム》の図禄があります.実用品でありながら,そこにこめられた色彩と意匠とのあざやかさにはまったくおどろかされます.森氏はこの展示なんかも,ことによるとご覧になっていられるのではないでしょうか.