内側からの歌舞伎史

織田紘二『芸と人 戦後歌舞伎の名優たち』(演劇出版社,2011年 4月)読了.この本のことは朝日新聞の読書欄(6月12日)で知りました.「役者は全役のせりふと型を覚えていなければならないとされるが、 「熊谷陣屋」の稽古で監修をしていた女形歌右衛門熊谷直実まで本当にやってみせた」という紹介文があったので,そんなことが書かれているのなら,それだけでも読む価値があるだろうとかんがえて取りよせてみましたけど,はたして,おもしろかったですね.タイトルにあるとおり,「戦後歌舞伎の名優たち」23名をとりあげて,その「芸と人」を書き綴っています.なお,織田氏は「開場翌年の春、 国立劇場に大学新卒で職を得」,以来,40年以上にわたって「伝統芸能の制作、 脚本、 補綴、 演出に携わ」ってこられた由.したしく接した役者たちのことを,演じた役々はもとより,稽古場や楽屋内での言動をも彷彿させるかのように,いきいきと描きだしています.わたくしがヘタな紹介をするよりも,歌舞伎に関心をもたれる方々には,ぜひ,直接この本をひもといてほしいと,おもいます.写真や系図が多用されているのも親切です.舞台写真ももちろんいいんですが,各項の扉に掲載された梅村豊氏による素顔の写真が,これがまた,いいんですね.役者としての,また個人としての魅力をたっぷりとつたえてくれます.
それにしても,歌右衛門の演ずる熊谷って,見たいような見たくもないような・・・(笑).