ウラから見た歌舞伎あれこれ

日本橋室町野村ビル(YUITO)の5Fホールで織田紘二氏の講演を聞きました.『芸と人 戦後歌舞伎の名優たち』の出版を記念しての催しだそうです.本には掲載できなかったカラー写真を大量に使って,役者さんたちの思い出の舞台や人柄やエピソードやらをたっぷりと描きだし,語ってくださいました.『芸と人』に書いてある話もありましたけど,はじめて聞くことも多く,歌舞伎制作のウラ側からの証言として貴重なものといえるでしょう.(いまでも)さしさわりがあるためか,ロコツには語られませんでしたけど,国立劇場の歌舞伎公演にたいする松竹のやりくちには相当にひどいところがあったようで,国立劇場専属の役者をつくるべきだという議論が起こり,じっさいにそうしたプランも何度かくわだてられたようですが,しかし,織田氏はこういういきかたをはっきりと否定されました.「国家公務員」が演ずる歌舞伎なんてオカシイ,というんですね.もっとも,織田氏は「国家公務員」として歌舞伎の制作にたずさわってこられたのですから,その立場は微妙であるように見えますけど,歌舞伎ほんらいの(反体制的な)エネルギーにかんがみるならば,この主張は当然のこととおもわれます.
むかしの役者さんたちの思い出にふけるだけでなく,昨今の状況への批判的な見解がしめされたことにも,感心しました.現代の某優が演ずる弁慶や,某々優が演ずる富樫の「性根ちがい」への批判はきわめて辛辣です.「籠釣瓶」の八ツ橋の「笑い」も,たんにそれをおこなう位置の問題であるのではなく,ストーリー展開上の,また舞台空間上の役者の(生理的な)うごきにかかわっての問題であることを語られました.このあたりは,役者の芸談にちかいといってもいいようです.
2時間ちかい時間をついやしてのお話でしたけど,用意した(らしい)写真の半分ほどしか見られなかったのが残念です.ぜひ,このつづきをやってほしいですね.それと,『芸と人』の「あとがき」にも書いておられましたが,八重之助師をはじめとするわき役のかたがたについての論評・紹介もおおやけにしてほしいと,おもいます.