ハチャメチャの極致

猫十字社『黒のもんもん組 完全版 1,2』(光文社,2011年11月)を読みました.「完全版」という宣伝文句にまどわされて,つい買ってしまったんですが,全部で何巻になるのでしょうか(11月24日に3と4とが発売予定とのこと).白泉社文庫版は抄本であったことがわかります.内容はまったくのシッチャカメッチャカで,第1話からして,主役の3人がいきなり登場して,設定や人物の紹介などはまったく無いまま,「人類は/皆 兄弟/しかるによって/人類は/皆 近親相姦〜〜〜っ」と,ぶちかましてくれます(笑).第2話では,とらじゃさんが漫画家で,編集さんから原稿のサイソクをされる,というおきまりのシーンがありますけど,これもストーリー展開上の設定というよりも,とらじゃさんじしんが作者である猫十字社であるのかもしれません.キャラクーたちは自由気ままに変身し,連想や駄洒落や,CMや流行歌のパロディーなどが次から次へと出てきて,あきれるほどの奇怪な作品になっています.こういうマンガにたいしては,「評論」は無力ですね.作品と読者の感性とが合うかどうかだけが評価の決め手になるので,受け入れられないひとにとっては何をいってもムダですし,逆に,これを好む読者には「解説」も不要となることでしょう.もっとも,このハチャメチャな作品の構成法とか源泉を考察することは,後世の批評家たちの作業として意味のあることになるかもしれません.わたくしはそんなことをする興味はないのですけど,素朴な印象からいえば,猫十字社氏はかなりハイブラウなひとなのではないかと,おもいます.「第5話」の最後のページに出てくるせりふ「え なに? 原稿?/そんなものは家来にまかせておきなはれ」はヴィリエ・ド・リラダンを踏まえているのでしょうか.