秀太郎丈の芸談

片岡秀太郎『上方のをんな 女方の歌舞伎譚』(アールズ出版,2011年12月)を読みました.サブタイトルの「歌舞伎譚」には「しばいばなし」とルビが振ってあります.芸歴65年にして,ことし古稀をむかえた著者の,(おそらくはじめての)著書です.ご尊父である十三世仁左衛門丈をはじめとする松嶋屋一門や先輩諸氏のこと,これまでにつとめた役のこと,それぞれの役の性根や型のことなど,具体的にくわしく語っていて,若い役者さんたち(および歌舞伎愛好家たち)への貴重な資料となることはまちがいありません.上方の歌舞伎を守り育てようとする著者の意気込みが全編につらぬかれているのに,感動しました.秘蔵(?)の写真を載せているのも,いいですね.もっとも,これらの記述があまりにオーソドックスにすぎる,という印象も受けてしまいました.こういっては失礼かもしれませんけど,秀太郎丈は今日の歌舞伎界に占める位置にいたるまでには,かなりのまわり道を踏んでこられたのではないかと,おもわれるからです.元細君といっしょに熱海の温泉旅館でエンターテインメントに徹したショーを演じたり,山城新伍がやっていたかなり低俗なテレビ番組に出演したりしたことも,あったはずです.こんなことをあからさまにするのは非礼にあたるであろうことは承知していますけど,こうした履歴をふくむ秀太郎丈の,今回の著書の裏ヴァージョンとでもいうべき聞き書きをどこかの出版社が企画してくれないものかと,期待してしまいます.そのさいには,ぜひ,「野崎村」のお光がクリクリ坊主になる(秀太郎丈独自の)「型」のことを記して,後世に,こういう「型」があったんだということを伝えてほしいですね,