特殊なテーマだけど,おもしろい

平成23年度歌舞伎学会秋季大会に参加して,3本の研究発表を聞いてきました.標題に記したとおり,どれも特殊な(周辺的な)テーマをあつかっていますけど,おもしろく,聞きごたえのある内容でした.もっとも,「周辺的」などというと,それではなにがオーソドックスなのか,その基準はどこにあるのかと突っ込まれそうですが,こまかいことは抜きにして,わたくしの勝手な感想を書くことにします.
「六合新三郎の陰囃子付帳コレクション」はエンパクの所蔵する300冊以上の付帳を精査して,新三郎の活動の実態にせまっています.誤記や不明な点もおおいようですけど,出演した劇場や年代など,よく調べてまとめておられます.ただ,コメンテーターの発言にもあったように,新三郎だけでない,歌舞伎の「付帳」というものについての梗概(や全体像)が示されていたなら,聴衆にとってより親切であったかとおもいました.土田氏は松竹大谷図書館蔵の付帳にも取り組んでおられるとか.さらなる研究成果に期待したいですね.
「二世豊竹古靭太夫(山城少掾)所蔵浄瑠璃本目録について」は,これまた特殊な分野についての報告ですが,新出資料がまとまって保存されるのはけっこうなことです.山城少掾がきわめて筆まめで,(おそらくは)かなり几帳面なひとであることがわかりました.
児玉竜一教授による「画像と音声でみる劇評家列伝」はなかばオアソビというか,色物というか,肩のちからを抜いて楽しめる発表でした.役者のブロマイドなら熱中するのもわかりますけど,劇評家なんか(失礼!)の顔を見てなにがおもしろいのか,とおもいますが,ここには「肖像」というもののもつ不思議な魅力がかくされています.あの評論家はあんな顔をしているのか,と,ながめるだけで,(それを知らないよりは)興味がわいてくるというものです.むかしのひとの口調(たとえば,コメンテーターが指摘されていた渥美清太郎江戸前の発声など)も興味深く聞きました.