絵を「読む」ことのおもしろさ

小林章夫・齊藤貴子『諷刺画で読む十八世紀イギリス ホガースとその時代』(朝日選書 884,朝日新聞出版,2011年12月)を読みました.ホガースの出自,生涯,画業を解説すると同時にイギリス社会の政治的・歴史的・宗教的な背景や当時のひとびとの生活にもふれています.そうした面の知識がなくては,ホガースの絵を読み解くことはできない,というかむずかしいのですね.むろん,見るだけでおもしろい絵もありますけど,やはりその背後にあるものをさぐってこそ,作品にこめられた意味や諷刺を理解できる,というものでしょう.そうしたかんがえに(たぶん)のっとって,著者のおふたりはホガースの代表作をとりあげ,描かれている内容や諷刺の対象や技法上の特色などをくわしく論じていて,どの章も読みごたえがあります.なかで,第七章の後半はややトーンが変わり,「トマス・コーラム船長」と「シュリンブ・ガール」(どちらも版画ではなく油彩です)をきわめてたかく評価して,ホガースの思想性・芸術性を賞揚されています.そのつぎの終章は「ホガースの子孫たち」と題して,ローランドソンやクルックシャンク,さらには現代の諷刺画家たちにいたる系譜を記しています.ごくみじかい章ですけど,イギリスの美術についてのするどい見解が示されています.