入門書としてオススメ

池上英洋『西洋美術史入門』(ちくまプリマー新書 174,筑摩書房,二〇一二年二月)読了.高校生くらいのひとたちを読者として想定しているようですが,一般人にとっても有益な入門書といえます.美術史というものについて,シンボルやアレゴリーについて,創作や受容の背後にある社会的な諸事情について,などなど,かずおおくの図版(用例)を引いて具体的にわかりやすく語っています.パトロンの変遷やジャンルのちがいを図式にした「第四章」を,わたくしはとくに興味深く読みました.ただし,油彩画の発生を記した項に「この段階ではまだカンヴァスは用いられていませんから、油彩 + カンヴァスという組み合わせになります」(p. 124)とあるのは,あきらかに「油彩 + 板」のマチガイです.パソコンのワープロソフトを使用しての執筆(ないしは製版)がこうした事態をひきおこしているのでしょうか.また,「第五章 美術の歩み」の「初期キリスト教時代とビザンティン」であげた「ウラディーミルの聖母子」についての解説中に「この作品のように慈しみの表情のマリアのタイプを「エウレーサ型」といいます」(p. 153)とあるのですが,これは「エレウーサ(Eleousa)」ではないでしょうか.(ささいなあげつらいはわたくしの本意ではないのですけど,気になったので,つい書いてしまいました).