よくわかるようになったような,そうでもないような・・・

国立劇場の歌舞伎公演「一谷嫩軍記」を見ました.九十八年ぶり(!)の復活である「堀川御所」を序幕に据え,昭和五十年以来の上演となる「流しの枝」を二幕目とし,「熊谷陣屋」につなげています.薩摩守忠度や岡部六弥太は,どんな人物でどんな活動をするのか,まったく知らなかったのですが,今回の上演で概略がわかりました(といっても,史実とはかなりのちがいがあるようですが).序幕ではひとびとの関係や義経の深謀遠慮を説明していて,時代的な背景や状況がよくわかるようになっています.が,やはりわかりにくいところもあり,たとえば義経の岳父である平大納言時忠は善人なのか悪役なのか,ここだけではなんとも知れません.二幕目に出る太五平も,滑稽な役どころであるらしいのですけど,このさきどうなるのでしょうか.国立劇場開場四十五周年記念と銘打っている企画の意欲は買うのですが,やや中途半端な感じを受けてしまいます,と,いわざるをえません.三幕目「熊谷陣屋」の場も,相模の登場から,藤の方と梶原の入り込みまでていねいに見せていて,良心的な演出ではあるのですけど,そのいっぽうで梶原の最期を花道揚幕のなかでのうめき声だけですませるという,安易なやり方をしています.団十郎丈の熊谷には十分に堪能させられただけに,こうしたアンバランスな面があったのが,残念です.