芳年の魅力満載

別冊太陽 日本のこころ 196 月岡芳年 幕末・明治を生きた奇才浮世絵師』(平凡社,2012年 6月)を読みました.昨年が国芳の没後150年にあたっており,ことしは芳年の没後120年だそうです.そんなわけで,このふたりの業績がいろいろなかたちでおおやけにされるのは,まことによろこばしいことです.師弟ともにエネルギッシュで,多彩で,現代のわたくしたちを惹きつける魅力と迫力とに富んでいます.が,活動時期のちがいも関係しているのでしょうか,国芳には江戸の洒脱さが感じられるのに,幕末と明治とにまたがった芳年の作品には<エキセントリック>という印象をつよくを受けてしまいました.「英名二十八衆句」や新聞錦絵の血みどろの絵のインパクトが強烈であるせいかもしれません.また,斬新なパースペクティブのために人物の姿勢や手足の位置がわかりにくくなっているものがあるのも,事実です.本書の表紙を飾っている「芳年武者无類・相模次郎平将門」なんかはその一例といっていいでしょう.そのいっぽうで,「見立多以尽」や「風俗三十二相」のように優雅なものも描いているのですから,絵師の技量や関心の多様さと奥深さとには,まったく圧倒されます.なお,本書ではじめて知ったものに,「初公開! 幻の版下絵「看虚百覧怪」」(pp. 149-161)と肉筆の幔幕絵「佐久間盛政羽柴秀吉を狙ふ」(pp. 172-176)があります.前者は,絵もさることながら,題材とした種々の伝承にかんする芳年の教養のふかさをおもわせます.幔幕絵は福富太郎コレクションの収蔵品だそうですけど,これはぜひ山梨県立博物館で公開してほしいですね.