ハチャメチャと深刻の混淆

TONO『カルバニア物語 14』(徳間書店,2012年 9月)を読みました.短編2編と,6回にわたって書き継がれた中編「クロスチアの友人」の3作をおさめています.「クロスチアの友人」がなかなかの力作です.が,ストーリーはかなりわかりにくく,12巻で登場したビスが主役になって進展するように見えて,しかし,アナベラやコンラッド王子など脇役かとおもわれた人物が重要な役割を受け持ってもいるようなのです.さらに,7巻以降まったく出てこなかったプラティナが意外な姿をあらわしたりもします.ことによるとタニアこそがこの作の(隠れた)主役なのかもしれません.それにしても,多彩な登場人物たちを自由にうごきまわらせつつ,過去の設定や因縁を生かして,あらたなストーリーをつむぎだすTONO氏の才覚にはまったくおそれいりました,と,申しあげるほかありません.ひとびとの意識が交錯し,いくつもの視点がつぎつぎに移り変わっていく微妙にしてたくみな展開,そしてハチャメチャのように見えて,その裏にうかがわれる深刻な感情(とけっこうリアルな,ときにはおそろしいとさえいえる絵)など,TONO氏の世界はますます目が離せなくなりました.