ヤマザキマリ氏の新刊2冊

テルマエ・ロマエ V』(エンターブレイン角川グループパブリッシング,2012年10月)と『ジャコモ・フォスカリ 1』(創美社集英社,2012年 9月)を読みました.『テルマエ〜』は前巻から引きつづく「伊藤温泉」のエピソードがますます盛りあがって最長になり,この「第V巻」でも終わらず,さらにつづくことになります.が,『テルマエ〜』全編の終焉もちかいようです.古代ローマから現代日本へのワープというかなり突飛なおもいつきからはじまっていますので,土台シッチャカメッチャカで,どんな展開になってもかまわないようなもんですけど,これまでに積みあげられてきたこまかい部分のリアリティーを生かすエンディングを期待したいものです.それにしても,「ローマ&風呂、わが愛」と題するエッセイに見られる著者のウンチクは相当なものです.創作のウラバナシみたいなことを語っているのがおもしろいですね.
さて,『ジャコモ・フォスカリ』のほうは,老年のイタリア人を主人公とする渋い話で,「一九九三年 東京」を物語の記述の「現在」としていますが,それより20年以上前の昭和40年代が主内容となっており,さらに古い戦前の(主人公ジャコモの)少年時代も出てきます.回想シーンといってもいいんですけど,むしろ3つの時間が交錯して描かれているというべきかもしれません.身分も生活環境も性格もことなるアンドレアに対する複雑なおもいがジャコモには染みついており,それ似た感情が音楽喫茶ではたらく古賀に向けられる,つまり<アンドレア=古賀>であるんですが,同時に<ジャコモ/アンドレア>の関係と<古賀/聡子>の関係も(性別のちがいはありますけど)パラレルであるようにおもわれます.もっとも,これはわたくしのごく直観的な感想ですので,まちがっているかもしれません.が,全編にノスタルシックな雰囲気がただよっていることは,たしかです.昭和40年代はヤマザキマリ氏にとってもなつかしさのある時代なのでしょうか.三島由紀夫安部公房をおもわせる人物たちも登場していて,これからの展開がたのしみです.