個人の秘密と国家の秘密

清水玲子『秘密 トップシークレット 11,12』(白泉社,2012年11月)読了.「2010」は,昨年3月刊行の『9』からはじまって4巻にわたって繰りひろげられた,シリーズ最長の作品となりました.雑誌掲載は2010年 6月号からだそうですので,丸2年以上をついやして描いたことになります.すごいですね.『10』のおわりあたりから,この先どうなるんだろうと,期待と不安でいっぱいだったんですが,これほど大きなスケールの事件が潜んでいたとは,まったく予想できませんでした.もっとも,日本の警察の上層部をうごかしうるほどの権力や組織があるんだろうかと,ちょっと疑問ものこりますけど,それにひとりで対峙する薪さんの行動は,やはりすごいというほかありません.「秘密」を処分することが「秘密」の公開につながるという,皮肉なドンデンガエシ.ネタバレになってしまうのでこれ以上は書きませんが,清水玲子氏の創造力(想像力)のすばらしさをここに見ることができます.しかも,そうしたミステリーとしての要素にくわえて,ストーリー展開にそくしつつ登場人物たちのせつないほどの感情の流露が描かれている点に,「秘密」シリーズの魅力(とでもいえばいいでしょうか)があるようにおもいます.ことに,薪さんに対する青木クンのおもいには,ホモセクシュアルな匂いがあって,いいですね(笑).とにかく,たっぷりと読まされました.いまはその余韻にひたっている状態ですので,感想とか批評めいたことをいうことができません.わたくしの気づいた,ごく断片的なことがらをふたつだけ記しておきます.1.以前にもありましたけど,過去の作品の引用が目だちます.回想シーンとかんがえることもできますけど,重層的な効果を生みだす,すぐれた技法といえるでしょう.2.「2010」の「大きなスケールの事件」を作者が構想したさい,1816年のメデュース号の座礁事件がヒントとしてあったにちがいない,と,わたくしはおもっています.