歌舞伎学会秋季大会

武蔵野美術大学でおこなわれた歌舞伎学会の秋季大会にいってきました.1日目のテーマは「歌舞伎・文楽と近代美術」です.武蔵美の名誉教授である小石新八氏の講演は「現代舞台美術と歌舞伎大道具」と題されていますけど,舞台美術や大道具だけでなく,劇場空間をめぐっての歴史的な考察になっていた,と,おもいます.初期の芝居小屋からはじめて,回り舞台や花道,観客席の位置やおおきさなど,歌舞伎の空間がいろいろに変化してきたことを語られました.ことに明治にはいってからの舞台間口の拡大はたいへんな事件で,現在わたくしたちが見ている「歌舞伎」(の舞台空間)は江戸時代のそれとはかなりちがっていただろう,と強調されていました(と,わたくしは受けとりましたが,おぼろげな記憶なのでたしかではありません).オペラとの比較も興味深かったですね.つぎの児玉竜一氏の講演「歌舞伎と近代美術 その射程圏」は劇場内に陳列されている絵画・彫刻,衣裳,大道具,絵看板,雑誌など,じつに多種多様な「美術」を豊富なスライドによって紹介されました.なかで,六代目菊五郎が裸になって「鏡獅子」の(前シテの)ポーズをとっている写真には笑ってしまいました.水田佳穂氏の「資料紹介」は文楽の首の研究家である斎藤清二郎にかんするものです.へ〜こんなひとがいたの,というのが正直な感想ですが,こういった資料について,また斎藤氏のようなひとについての研究がすすめばいいですね.さいごのシンポジウム「歌舞伎と近代美術」ではまず川添裕氏が基調となる話をされました.レジュメのはじめのほうに「西洋絵画と「写真」が同時にやってきたことが重要」とあるのが,印象にのこりました.また,「写真」ということばが「真を写す」の意であるとの指摘も,重要かとおもいます.ほかにも各氏の問題提起というかさまざまな視点の提示があって,どれもおもしろいのですが,はなしが拡散しがちであったようにも,感じてしまいました.どだい広汎な領域にわたることですので,時間のかぎられているシンポジウムでは結論(というかまとめ)をつけるのはむずかしいでしょう.『歌舞伎 研究と批評』に各氏の加筆・修正をくわえたうえで発表されるのを待ちたいとおもいます.