円熟のきわみ

吉田秋生海街diary 5 群青』(小学館,2012年12月)読了.このシリーズ,5冊目になるんですね.派手なストーリーがあるわけではなく,ひとびとの日常を坦々と語っているように見えて,しかし,深刻なはなしが出てきたりもします.冒頭の「彼岸会の客」はすずの母方の実家のひとたちのこと,およびすずへの遺贈という,複雑な人間関係をテーマとしていますが,そこにもっていくまえに,おはぎのはなしと幸の昇進のはなしがあって,これが伏線というか一種の小道具として効果的に使われ,ラストをうまくまとめています.つぎの「秘密」と「群青」は『4』の「おいしい ごはん」で登場した食堂のおばちゃんが要の位置を占め,幸と佳乃とすずの三者三様のかかわりが描かれると同時に,裕也がある決意を風太に語るシーンが出てきます.そのどれもが<秘密>というキーワードで共通していて,複数の物語の同時進行が,これまたじつにうまく展開されます.いくつもの視点が交錯しているのも特色です.そして琴線に触れる絶妙のせりふがちりばめられており,読者の感動を引きださずにはおきません.シリアスな面がつづくかとおもうと,コミカルな(ギャグにちかい)絵や作者によるツッコミがところどころにはさまれ,ストーリー展開にメリハリをつけています.吉田氏の創作力が最大限に発揮された傑作といっていいでしょう.